P13
13.I 様 (柏市在住)
振動打消(CancellingVibration)スピーカ
DCU-131PPウーファユニットの対向型配置で、全体重量を軽量化しながらコーン紙の反作用を打ち消し、
駆動原点の明確化を狙ったスピーカを作ってみました。
特徴
スピーカは振動板を前後に移動し音を出す構造ですから、その反作用でコーン紙の駆動原点となるべき磁気回路や
フレームが僅かならでも動いています。
そのため磁気回路を基準としている振動板は正確な動きをしていないとも考えられ、
更にフレームの振動はエンクロ―ジャなどに伝われば余分な音を発生させ忠実な再生を損なう一因となると考えられます。
その対策として一般にはユニット背面にデッドマスを付けたり、フレームを強固で重量級のエンクロ―ジャに固定するなどして
反作用による振動を減らし、なるべくフレームやエンクロ―ジャが動かない(鳴かない)ようにしますが、
それらが無限大の重量でない限り完全とは言えません。
そこで、対向する2つのユニットを同相の信号で駆動してフレームへの反作用力を打消し、
アクティブに発生する振動を消す構造が考えられています。
この方式なら軽量のスピーカシステムでも反作用による振動を抑えられ、振動板の駆動原点が動かずに正確なコーン紙の
動きが得られるのではないかと考えました。
今回はユニット背中あわせに配置できるを小型エンクロ―ジャに入れ、足りない容積分は下側にエンクロ―ジャを足すという写真の構造にしてみました。
更にツィータも対向型として別体でウーファ部分の上に付けるようにし、バッフル面積を最小として広い音場効果も狙っています。
(左の写真は右側がスピーカの背面です)
またアンプによる駆動方法はユニット間の干渉を避けるために前後の各スピーカからアンプまでを4本独立して配線しています。
アンプ自体はバランスドライブを採用してでユニット毎それぞれに個別のアンプを接続しているので、
配線やアンプでの相互の影響も極力少なくなるようにしています。
仕様
使用ユニット 低域 PARC DCU-F131PP(左右各2ユニット使用)
高域 前:SEAS T29MF001 後:DENON 32DT34
クロス周波数 約3.5kHz(バターワース−48dB/octデジタルチャンデバDXC2496改使用)
エンクロ―ジャ 約22リットルバスレフ(fs 約50Hz、ポートは背面)
駆動アンプ バランス型マルチアンプとデジタルチャンデバによるユニット個別駆動
エンクロ―ジャ構造
今回はスピーカの持ち運びが簡単にできるように考えて、各部が分離可能な構造になっています。
構成は下から4角のベース板、ボイド管による円筒形エンクロ―ジャ、
上部のウーファユニット、ツィータユニットの四体からなり、それぞれネジ止めで分解できます。
そしてそれぞれ梱包箱を用意して手軽に可搬できるようにしました。
サイズ 21cmφ(45cm角ベース板を除く)x110cm(H) 重量 約10kg/台
ヘッドユニット
ヘッドユニットのうち、下のウーファ部のエンクロ―ジャは12mm厚のMDFを接着により組み立てています。
各辺とコーナは反射による干渉を低減するためアールをつけ白の水性塗料で塗装しています。
ヘッドユニットへのウーファの取付は右図の様に磁気回路の底部に真鍮ブロックを挟んで2つのユニットを接触させ、
前後を通しボルトで固定して結合し一体化しています。
これによりコーン紙の反作用を打消すようにしています。
ヘッドユニットのエンクロ―ジャはこのボルトの内側から位置出しをしたナットで固定、
ユニットとの間は薄いシールを入れ、機密性を保持するとともに振動を伝え難い様に
浮かせ気味に取付けています。
ツィータ部は塩ビパイプにマーブル模様カッターシートを貼り、MDFのバッフルで挟んだ構造でウーファ部と同様に前後をボルトを通し、
ユニット底部には固定材を挟んでユニット同士を固定しています。
ウーファとツィータ間の距離はウーファよりツィータが20mm下がるようにツィータ間を狭くして段差をもうけ、
前後の組となるユニットととも2wayに必要なタイムアライメント距離を物理的に取り、
波形再現性と全体の点音源化を図っています。
ウーファ部への取付はツィータへの振動伝搬を削減するためにジェルを挟んでルーズな取り付けとして
澄んだ高域再生をはかっています。
各ユニットとも対向配置なのでユニットからの振動が少なく、ヘッド部のエンクロ―ジャの強度や重量は
それほど必要とされないので全体の軽量化ができ、
ウーファ部と合わせてヘッド部1台では4つのユニットを搭載しながら約6.5kgに収まりました。
エンクロージャ
下部のエンクロ―ジャは全体の軽量化の為には占める割合が大きいので、板材を止めボール紙を円形に固着成形した市販のボイド管というものを利用しました。
今回の使用した管の内径は200mmで厚みは約5mmのもので、これを高さ約75cmにカットして使用しています。
これでスピーカユニットの高さが丁度椅子に座った耳の高さになるように合わせています。
ボイド管はボール紙とはいえ円筒形状の為強度はありますが、
更に内部には補強用にボイド管の残り部材に割を入れ、適宜内部に貼り付けて2重化をしています。
また筒共鳴を防ぐよう、吸音材を上から約1/4,1/2,3/4の場所に吸音材を固定するため、
10mm径の固定用の筋交いを入れ、管に垂直に吸音材を固定しています。
エンクロ―ジャの表面仕上げはマーブル模様のカッティングシートを貼っています。
塗装に比べ簡単で、高級感もあります。ツィータユニット側面の円筒も同様の仕上げとしています。
結果、エンクロ―ジャは鳴きの少ない丈夫な構造にもかかわらず、重量はボイド管を利用したため
約2.5kg/台と軽くできました。
特性
インピーダンス特性
エンクロ―ジャの長さが半波長になる筒共振で210Hzあたりに共振が出ていましたが、吸音材を挿入することで抑えられました。
(図はウーファユニットのみ)
吸音材あり 吸音材なし
各ユニット周波数特性
デジタルチャンデバによるマルチアンプ駆動をしています。周波数特性も補正を加えリスニンググポイントでのフラットを基本に聴感で若干修正を加えています。
最終的にはクロスは3.5kHzあたりに変更しています。赤がウーファ、黒がツィータの特性です。
試聴
前後にスピーカが有るため指向性は双指向性となり、背面にも音場が広がるので無指向性スピーカの様な前後に広い奥行きのある独特の雰囲気を持った
再生をします。このため音場の再現に優れた効果を発揮するようです。
また今回の特徴である対向型の為に音の立ち上がりが良く、輪郭がはっきりして微細な表現と馬力のある音が出るシステムになったように感じます。
背面のスピーカの正面への回り込みは少ないのですが、それで背面の音を止め通常のタイプとの比較をするとその差がはっきりすることで、
効果が確認できます。
9畳ほどの洋室で使用していますが、アンプ性能のあいまって13cmのは思えないような低音再生能力があります。
全体に軽量で優れた音質を持ったユニークなスピーカシステムができたと満足しています。
(現在は更にユニットをDCU−131Aに交換)
2012/4/28