磁性流体について

2012年05月25日(金)

ブログで質問を受けましたので、今日は磁性流体について書いてみようと思います。

 

先ず磁性流体とは何かですが、ざっくりと言うと細かい鉄粉(磁性材)の入った油と思ってください。

 

スピーカーの磁気回路の中で、最も磁束密度(つまり磁力)の高い場所は磁気ギャップ部なので、この磁気ギャップ部に磁性流体を入れると、中の磁性材が磁束に引き付けられるため、結果として磁気ギャップ部に磁性流体は保持されることになります。

 

とまぁここまでが概略ですが、スピーカーで磁性流体を使うことのメリット・デメリットについて書いてみましょう。

 

1.メリット

 

 1)耐熱性(耐パワー性)が向上する

  これはボイスコイルが磁性流体(油)に接触することで、ボイスコイルからの

  放熱性が大幅に改善されるため、結果としてボイスコイルの温度上昇が抑

  えられ、耐パワー性が上がります。

 

 2)ユニットのQを抑えることができる

  これは磁性流体によりボイスコイルに対して機械的な制動がかかるので、

  結果としてユニットのQを抑えることが出来ます。

  この手法は、内部チャンバーの少ないトゥイターなどに非常に有効で、

  F0近辺の特性の盛り上がりを抑えることが出来ます。

 

 3)歪み特性が改善される

  磁性流体によってボイスコイルが制動されるので、結果として歪み特性

  (主に2次歪み)が改善されます。

 

 4)製造不良率が改善される

  磁気ギャップ部に磁性流体が充填されていることにより、ユニット不良の

  定番である鉄粉(異物)不良(ギャップにマグネットのカケラなどが混入し、

  VCと接触して異音が発生する)がほとんどなくなり、結果として歩留まりが

  大幅に改善されます。

  また、磁性流体は自動センタリング機能があるので、この効果を利用して

  ヨーロッパのドームTWなどでは治具無しで組立てているものがあったり

  します。

 

さてここまで書くと、いいことばかりじゃないか、素晴らしい! と思う方も多いかも知れませんが、磁性流体には残念ながらデメリットも存在します。

 

2.デメリット

 1)音質へのダメージがある。

  これは多分に主観も含まれますが、私が磁性流体をあまり好まない最大の

  理由はこれです。具体的には、音が鈍くなることで、特に振動系の軽いTW

  への影響は大きいです。

  これはVCが磁性流体によって機械的に制動を受けることが原因で、上記

  の2番とは表裏一体の現象です。

 

 2)大入力が多く入るようなモデルでは、経時変化が起こる場合がある。

  これは、大入力でVCの温度が上がり、結果として磁性流体の油成分が

  揮発して粘度が変わるため、制動効果が変わることで起こりますが、

  安価な磁性流体を使っているモデルでは特に要注意です。

 

 3)WFなどの大振幅をするユニットには、信頼性的に使えない。

  WFなどの場合、先ず磁気回路内が磁性流体で密閉され、VCが振動

  した時に背圧が高くなり、結果磁性流体が背圧でギャップ外に押し出され

  たり、エアー抜けの穴を開けても、今度は大振幅するVCに磁性流体が

  かき出されてしまい、短時間で磁性流体が流出するので、初期特性を

  維持することが非常に難しくなります。

  そのため、ダンパーをなくして代わりに磁性流体を使うということは、

  1日(数時間?)だけもてばOKなどという条件で無い限り、先ず実現不可能

  です。

 

  追加補足

  念のためネットで検索をしたら、某ショップでフルレンジ用として磁性流体の

  使用例が紹介されていましたね。びっくり!!

  「特にトラブルなども無く、顕著な特性の改善効果が確認できたので」と

  ありましたので、これが事実であれば凄いことですね。

  「取り敢えず、試してみたいという勇気のある方には・・」とありますので、

  ご興味のある方はチャレンジしてみては。

  私は勇気が無いのやりませんが。

 

 

以上が概略となりますが、実際に量産で磁性流体が使われているものは、上記の理由でTWがほとんどであり、WFで使われているものは少なくとも私は見たことがありません

チャレンジされているショップ様がいらっしゃいました。(^^;

 

実際、ソニー時代に大手磁性流体メーカーから「WFでも使えるものができました」との売込みがありましたが、具体的にどのようなユニットでどの程度の信頼性テストを確認したかについて質問したところ、具体的なデータなどの回答は一切なく、結局そのままになったということがありました。耐パワー性能の要求が非常に強いPAなどのプロ用ユニットなどでは、もしこの信頼性が確保できれば需要は非常に多いと思いますが、信頼性を考慮すると個人的には先ず無理ではないかと思います。

 

ちなみに磁性流体が出始めたころは、オーディオ各社がいろいろと検討を行い、WFなどでも使えるように磁気回路内のエアー抜けを施すような特許もいろいろ出されたりしていましたが、国内メーカー製で実用化になったことは無かったと思います。また初期のころは、WFなどのパワーテストで、テストを始めた途端に飛び散った磁性流体でユニットがビチャビチャになってびっくりしたなどという笑い話もあったりします。

 

磁性流体に対しての考え方は、各社によって違いますが、ヨーロッパ系の会社は結構使われているものが多いと思います。特に特性だけを見れば、磁性流体を使うと、特性はスムースになり、歪みも減りますので、中国のユニットメーカーは好んで使うことが多く、黙っていると勝手に入れられたりします。(^^;

 

最後にPARC Audioではどうかということですが、上記の説明のように音が鈍くなるというのはPARCのサウンドポリシーとはかなりかけ離れているので、私自身は出来るだけ使いたくないのですが、1モデル(DCU-T112A)だけは例外的に使っています。これは言わば必要悪みたいなもので、磁気回路部のバックチャンバーが少ないため、磁性流体を入れない状態ではF0近辺が強烈にピークで盛り上がってしまうため、これを抑えるために使用しています。

 

まぁT112Aの場合は、振動系がアルミ20ミクロンと言う非常に軽量なものなので、磁性流体の悪影響を受けてもまだメリットの方が勝っているということです。本来なら、磁気回路内にチャンバーを設ければ、磁性流体は必要ないのですが、このモデルはどうしても標準部品を使って製品化する制限があったため、ここだけは妥協をしています。なお同じ軽量アルミドームのPARC-T11では、磁気回路内にしっかりチャンバーを設けて、磁性流体は使用していません。

 

追加補足2

磁性流体のスペックには「飽和磁化値」と「粘度」がありますが、前者はどの程度の磁束で磁性流体が磁気飽和するかという値ですが、これは大きいにこしたことはないのでコストが許す限りスペックの高いものを選びます。

問題は「粘度」の方で、これは特性や音質に直結します。早い話が、この粘度が低いほどシャバシャバの水のような感じで磁性流体のダンプ効果が弱くなるので、特性の改善は少ないものの音質劣化も少なくなります。そのため、PARCでは出来るだけ必要最低限の粘度のものを使うようにしています。この辺もメーカーによって考え方が違い、中国ベンダーなどは特性中心で設計することが多いので、ほっとくと どんどん粘度を上げてきたりします。

この記事へのコメント

GX333+25 2012.5.25

PARC 様

磁性流体についての解説、どうもありがとうございました。「何だろう?」と思いつつもほったらかしにしていたのですが、要するに、μサイズの磁石の粉を油に懸濁させて安定させたコロイド状態のもの、ということなんですね。ひょっとして、大昔には「安定した油」ということでPCBを使ったのもあったりして……ベリリウムドームがPCB使用の磁性流体を併用していたら、これは「凶悪犯」ですね(笑)。

 冗談はさておき、至る所で「あちら立てればこちら立たず」のお話が出てくるものですね。

 閑話休題、先日、近所の中古屋さんにJBL D-130の結構状態の良いのが置いてありました(お値段も良いお値段でした)。思えば、J.B.ランシングが理想のスピーカーを追い求めて考え詰めて、ついに自殺にまで至ってしまった因縁のユニットですが、現在に至るも、D-130の時代とスピーカーユニットに構造上大きな変化はない、と聞きます。この「あちら立てればこちら立たず」を、どう最適化するか、本当に長い年月をかけて苦労なさっているのですね――少し気が遠くなる思いがしました。

parc 2012.5.26

GX333+25様

>至る所で「あちら立てればこちら立たず」のお話が出てくるものですね。

そうですね。ユニットの設計では常にこれの連続になります。

うめぼし 2012.5.27

Parc様

先日、流体磁性について質問をした者です。
エンジニアの方から詳しくご説明頂けるとは全くもって想像もしていなかったので大変感激致しました・・・
詳しい説明&補足まで追加して答えて頂き、本当にありがとうございました。
そして、失礼な質問をしたと改めてお詫びいたします。

parc 2012.5.27

うめぼし様

>詳しい説明&補足まで追加して答えて頂き、本当にありがとうございました。

少しはお役に立てて、何よりです。それにしてもフルレンジで使っていらっしゃる方がいるとは驚きました。勇気あるなぁ・・・。

>失礼な質問をしたと改めてお詫びいたします。

いえいえ、全くそんなことはありませんので、今後とも気軽にコメントやご質問をいただければ幸いです。Gooのブログの時に比べると、最近コメントが少なくなって、ちょっと気になっていたんですが、やっぱり今のブログはちょっと敷居が高いですかねぇ・・。

CarriageDriver 2012.5.29

ご無沙汰しております。 と言う以前に「絶対買うー!」と意気込んだ割りに貧乏に負けてFシリーズの注文もできずに失礼しております(苦笑)

なるほど、SSの9500と9700をためしに裸で鳴らしたときに感じたのはそのままその通りだったのがわかって自分の印象もあながち捨てたもんじゃないと安心しました(笑)
私はできれば無いほうが好みの音が出やすいように思います。代表も指摘されているようにコーン型ドライバには特に不要に思います。
自分でも実はやってみたことがありまして。
モータ部分に手を入れた影響もあると思われるしどこまでがモータのジオメトリが狂った影響でどこからが磁性流体による影響なのかもわかりませんが、確かに音圧出力特性は簡単に平坦になるしそれはいいんですがいかんせん「音が死んでいるのにキツイ音が鳴る」ばかりで早々に撤退しました(^^;;;)

ただ、impの補正をしないとどうにもつながりようがないドライバ(特にTWで)などの調整にはもってこいのデバイスなんでしょうね。

磁性流体の頒布というと、最近は台湾メーカーとの連携を強化していらっしゃる関東南部のあのお店でしょうか?
どうもMFBで有名な大先生が一時ハマっていらしたようで…

parc 2012.5.29

CarriageDriver様

>「絶対買うー!」と意気込んだ割りに貧乏に負けてFシリーズの注文もできずに失礼しております(苦笑)

安いモデルではないので、あまりお気になさらずにしてください。

>コーン型ドライバには特に不要に思います。

そうですね。コーン型の場合はダンパーがあるのでセンタリングは十分確保されますので、むしろ失うことの方が多いように私は感じます。

>impの補正をしないとどうにもつながりようがないドライバ(特にTWで)などの調整にはもってこいのデバイスなんでしょうね。

そうなんです。だから必要悪みたいなものですね。(^^;

>関東南部のあのお店でしょうか?

まぁ具体的な名前は同業者様ということでご容赦ください。私もネットで磁性流体で検索して知ったので、おそらく簡単にお分かりになるかと思いますよ。
それにしても怖いもの知らずというか、勇気がおありですねぇ。私みたいな小心者にはとても真似ができません。

GX333+25 2012.5.29

PARC 様

 磁性流体使用例、私も実例を見て驚きましたが、円筒型スピーカーでコーンが上向き、ってところで可能なのかも、と思って、自宅に遊んでいるスピーカーで試してみよう、というもくろみはやめにしました。

 だいいち、いくら「必要『悪』」といっても、「悪」と聞いた途端、除去、という発想が私にはちょっと……その「必要悪」を2枚使って、動きをさらによくしようというアプローチもあるわけですから。

parc 2012.5.29

GX333+25様

>その「必要悪」を2枚使って、動きをさらによくしようというアプローチもあるわけですから。

ちょっと私の説明が不十分だったかも知れませんが、必要悪と書いたのはダンパーではなく、磁性流体のことを示していました。ダンパーは完璧ではないとはいえ、そこまで悪人ではないと思います。

CarriageDriver 2012.5.30

いえいえ、もう引用なさったその一言でビンゴでしたから(笑)

たまたま1000円くらいのドライバが手元の余ってしまっていたので弄り倒すついでにと勇み足を踏んでしまっただけのことでして(^^;)

機械で測るような特性はたぶん申し分ない形になったんだと思われるんですが、肝心の音が・・・

期待したのは下のほうでのQを大きくできることで過大振幅を抑制することと中高域(個人的には800~2.5kがフラットに、かつすっきり出てきてくれないと不満に感じやすいようです)のちょっとしたピークの抑制の両立だったんですが、どうにもこうにも音がコーンにへばりついたように剥がれなくなってしまいまして。特性だけはフラットなんですが。

なんというか、ちょっと極端な例えをすると「下手に作ったアコサス」みたいになっちゃいましたね。

それ以来は餅は餅屋にがんばっていただくことがシロートには最善なんだと理解できました(苦笑)

parc 2012.5.30

CarriageDriver様

>機械で測るような特性はたぶん申し分ない形になったんだと思われるんですが、肝心の音が・・・

そうですね。磁性流体の例は、スピーカーの音質が特性だけでは決して表せないことがまだまだ多いことをはっきり示していると思います。

>ちょっと極端な例えをすると「下手に作ったアコサス」みたいになっちゃいましたね。

なるほど、よく雰囲気が分かる表現ですね。
ところで本文で書き忘れたことを思い出したので、後でまた補足しておきますね。

| 2012.6.1

やはりメーカーのパワーテストと個人の趣味は違うのでしょうね。
家の中では1W入れられるかもあやしかったりしますから。

それと一つ質問です。

>3)歪み特性が改善される

というのは、ダンパーのリニアリティの良い部分を使えるようになるからという理解で良いのでしょうか?

parc 2012.6.2

| 様

>やはりメーカーのパワーテストと個人の趣味は違うのでしょうね。

そうですね。スペック表示上の数字は誰が見ても分かりやすいこともあり、どうしても高めをねらう傾向がありますね。カー用などではその傾向が非常に強いです。
またPA用のように、実用上でもパワースペックが必須の用途もありますね。

>歪み特性が改善される
 というのは、ダンパーのリニアリティの良い部分を使えるようになるからという理解で良いのでしょうか?

先ず私自身はドームTWでしか量産をやったことはありませんが、ドームの場合はエッジだけのダンパーレス構造ですから、磁性流体を入れることで支持系がかなりしっかりするので、VCを含めた振動系の不要共振が制限され、結果として歪みも改善されます。

ダンパー付きのモデルも基本は同じですが、ドームほどの効果は出にくいと思います。そのためダンパー付きのモデルで効果をしっかり出すためにはより粘度の高いものを使う必要があるかと思います。

ただダンパーのリニアリティの良い部分を使えるようになるからということではないですね。何故なら同じ音圧を出すためには同じ振幅をする必要があるため、磁性流体の有無に関わらず、ダンパーの振幅量は変わらないため、結果としてその時のダンパー自体のリニアリティは変わらないと思います。

分かりやすい言い方をすれば、振動するVCの周りを油でじわっと押さえている感じになるので、それ自体の不要共振が出にくくなると言った感じでしょうか。つまりVCに制振材が付いた感じです。

| 2012.6.2

回答ありがとうございます。
振動系にダンプ剤を塗るようなものでしょうか。

磁性流体を入れると同時にエッジ/ダンパーの固さも調整するのかと想像したのです。
それでそのあたりの特性が改善するのかなと思った次第です。

parc 2012.6.2

| 様

>振動系にダンプ剤を塗るようなものでしょうか。

同じではありませんが、音のイメージはそれに近いところがあるかと思います。

>磁性流体を入れると同時にエッジ/ダンパーの固さも調整するのかと想像したのです。

通常の設計では、そこまでの微調整をしていることは少ないのではと思います。

やまもと 2017.7.22

はじめまして。磁性流体の検索で辿り着きました。今、70年代末~80年代初に製造された国産スピーカーをいじっているのですが、測定するとTWのFoが非常に盛り上がっており、カットに苦労しております。本来あった磁性流体が揮発したせいでは、と考えておりますが、そもそもこの時代から磁性流体は国産メーカーで採用されていたのでしょうか。ご教示いただけると幸いです。

parc 2017.7.23

やまもと様

>そもそもこの時代から磁性流体は国産メーカーで採用されていたのでしょうか。

70年代末~80年代初と言えば私の新人時代ですが、磁性流体は既に使われていたと記憶しています。

ただ確信犯でFo近辺が盛り上がった状態で設計されたものもありますので、お使いのモデルが実際に使っていたかどうかは開けてみないと分からないかと思います。

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