プロジェクトF情報2

2010年12月06日(月)

こんばんは。今日は、前回お話したセンタリング精度が良くなることと音質改善の関係についてお話したいと思います。結論を先に言ってしまうと、最大のポイントはエッジにあるのですが、それには急がば回れで、先にエッジの機能についてお話した方が話が分かりやすいかと思います。

スピーカーユニットでエッジの果たす機能としては下記になります。

1)サスペンションとして
 これが一番一般的に知られている機能で、ダンパーと共に振動系を支え、狭い磁気ギャップの中をボイスコイルが当らずに前後に振幅できるようにしています。

2)振動板の一部として
 これは意外に知られていないことかも知れませんが、エッジは大きく振動しますので、当然それ自身からも相当な音圧を出しています。例えば、今回の17cmユニットではエッジ部の振動面積はロール頂点より内側だけで見ても、コーンボディの振動面積の何と20%近くもあります。一見した感じではあまり面積がないように見えるかも知れませんが、コーンよりも外周にあるので、見た目以上に振動面積は大きいのです。そのため、エッジ素材の振動板としての音色も重要な課題となります。

3)振動板の制振材として
 これは特にゴムエッジの場合は顕著ですが、中域以上で発生するコーンの分割振動を抑える効果があります。逆に布エッジなどのようにあまり制振効果が高くない素材の場合は、エッジ自身が一緒に共振して、俗に言うエッジの逆共振が大きく発生することもあります。

4)シーリング材として
 スピーカーユニットは振動板が前後に振動して音を出しますが、前後の音は位相が逆の音になるため、前後の音が混ざるとキャンセルされて低域特性が大幅に劣化します。そのため前後の音を遮断する必要があり、エッジは振動板とフレームの間でユニットの前後の空気の漏れを遮断しています。

ここで、上記の1)と2)3)はお互いに相反する要素なのです。つまり、サスペンション効果を強くしようとすると、どうしてもしっかりした、言い換えれば硬い(あるいは厚くて重い)素材を使うことになり、そうすると結果として能率の劣化や、中高域に大きなピークディップが発生したり、または音色が非常に重い暗いユニットになったりします。

SID方式の最大のメリットはこのエッジの改善で、SID方式ではエッジはサスペンションとしての機能は考えなくてよいため、上記2)と3)の改善を集中的に行えるのです。つまり従来方式では決して使えないような極薄(軽量)で高内部損失の高品位ブチルゴムを使い、コーン外周部の分割振動を効果的に抑えつつ、 エッジ自身からの嫌な音を最小限に抑えるということが可能となります。このことは言葉でいろいろ説明するより、実際のユニットのエッジを触っていただいた方が分かりやすいかも知れません。おそらくそのエッジの柔らかさ、薄さに驚かれると思います。これにより、非常にしっかりした低域と、素直な中高域の両立を可能としています。

実際ユニットの設計をする場合、このエッジの設計(選定)というのは非常に悩ましい問題で、簡単なように見えるかも知れませんが、実は毎回一番悩む部分でもあるのです。その意味で、それに関して設計の自由度が大幅に増えるSID方式は本当に有効な手法なのです。(コストを除けば)

ちなみに、この点では今回のプロジェクトFは同じSID方式をとっているソニーのハイエンド業務用ユニットSUP-L11よりも更に有利となっています。というのは、業務用の場合は要求される耐パワー性が非常に厳しいので、いかにSID方式と言えどもある程度の厚みを持ったエッジが必要になるのですが、プロジェクトFのようなホーム用での一般使用であれば耐パワー性はそこまで必要ではないため、思い切ったものが使えるのです。

エッジを改善する手法としては、完全にエッジをなくすという考え方がありエッジレスユニットというものも過去ありました。ただ、このエッジレス方式は4)の空気のシーリングをすることが最大の課題で、このシーリングをするために振動板外周部にコーン背面部に延びる大きなリング状の部材を付けることになり、せっかくエッジをなくしても、代わりに付加される部品の影響が出てしまいます。またこの方式はボイスコイルから見て振動板が巨大な片持ち梁構造となっていることも、気になる点で、個人的な意見ではありますが、私自身はあまりメリットを感じません。

さて次回はプロジェクトFの基本的コンセプトの一つである振動板の軽量化について書いてみようと思います。では今日はこの辺で。

この記事へのコメント

(りゅ~じん) 2010.12.7

はじめまして。
(りゅ~じん)と申します。こちらにコメントしていいのか
わかりませんが、

私はカーオーディオを自分で取付している者で、
ホームは経験がありませんが、某カーオーディオ誌で、「xmax」という言葉があり、検索すると、こちらのブログがヒットしまして、

それ以来、音も聴いてもいないのにファンです。
ファン歴2ヶ月ですが(笑)それではイカンと思い、せっかくですので、
ホーム用にDCU-F131Pを2ペア購入いたしました。

箱をどうするかはまだ決まっていませんが、早くPARC様の音を知ることができればと思っています。

プロジェクトFもすごく気になっています。

しかしとりあえずはDCU-F131Pを鳴らす事から始めたいと思います。

これからもよろしくお願いいたします。

PARC 2010.12.8

Unknown
りゅ~じん様

>ホーム用にDCU-F131Pを2ペア購入いたしました。

ご購入ありがとうございました。このモデルは既に生産終了となってしまったので、是非末永く使ってやっていただければと思います。

>プロジェクトFもすごく気になっています。

はい、精一杯頑張りますので、是非期待していてくださいませ。ただ、さすがにこのモデルは全高があるので、カーには無理かとは思いますが。

jun 2010.12.11

慣性質量は増える?減る?
どちらなのでしょう?
コーン紙、2つのダンパー、エッジをトータルで調整できるので、設計の自由度が広いようですが、もしかして、分割振動しづらくてフルレンジには向かない構造なのではないでしょうか?
その代わり、ウーファとしては、低域のゴー・ストップが正確、高域の減衰が自然で、結果、マルチウェイの低音用として納得のいく特性(音)を得られたのではないですか?
ある程度内容積を必要とするユニットであって欲しい気がします。うん。

PARC 2010.12.11

Unknown
jun様

>分割振動しづらくてフルレンジには向かない構造なのではないでしょうか?

分割振動とフルレンジとは基本的には関係ないですね。基本的にはフルレンジだろうがウーファーだろうが、分割振動は無い方がベターです。ただ、一般的にフルレンジの方が高域を出すために軽量化をしたりして振動板の剛性がとりにくいということで、結果として分割振動が出やすいということはあるかも知れません。

>ウーファとしては、低域のゴー・ストップが正確、高域の減衰が自然で、

確かにSID方式では一般のユニットに比べ、前後のウエイトバランスが改善されますので、立ち上がりや立下り特性は良くなりますし、また超ソフトエッジの効果で高域減衰も自然にしやすいですね。

>ある程度内容積を必要とするユニットであって欲しい気がします。

う~ん、これはちょっと微妙ですねぇ。あまり大きな容積を欲しがるユニットにしてしまうと、コストを含めて制約が多くなりますから。ただ、SIDですので大きなBOXに入れても十分ドライブはできると思いますが。

小川 2010.12.11

振動
振動、波を操るのは難しいですよね。

分野の違う話ですが、スポーツ用の自転車でもタイヤの中のブチルチューブを軽量で薄いものに変えると、振動が減り乗り心地が良くなる、という報告があります。
ラテックス製のチューブが一番良いと言われていますが、空気が抜けやすく高価なため、一般的には使われていません。

恐らく、固有振動時のQが低下するため、マイルドな乗り心地になるのだと思うのですが、スピーカーのエッジでも同様の事が起きているのでしょうか?

ブチルより高価になってしまいますが、組成がコントロールし易い、ポリウレタンやシリコンゴムなどはチャレンジとして面白いんではと想像してしまいます。

完成楽しみにしています。

PARC 2010.12.12

Unknown
小川様

>固有振動時のQが低下するため、マイルドな乗り心地になるのだと思うのですが、スピーカーのエッジでも同様の事が起きているのでしょうか?

はい、そのとおりです。振動板を含め、音響素材として内部損失が大きいもの(Qが低いもの)が理想とされています。

>ブチルより高価になってしまいますが、組成がコントロールし易い、ポリウレタンやシリコンゴムなどはチャレンジとして面白いんではと想像してしまいます。

スピーカーの場合、他のカテゴリーと違うことは、単に振動だけでは語れない音色というややこしいものがあることです。ソニー時代にいろいろなダンプ材や素材に関し、比較検討したことがありますが、制振材などでは振動減衰という観点ではシリコン系のものが一番優れていましたが、肝心の音はと言えばベストでは無かったというのが正直な感想です。音色と振動減衰のバランスが一番良かったのはウレタン系でした。これを、個人的にはその素材自身のもつ音色の差ではないかと思っています。というのは制振材と言えども、必ずそれ自身は振動して音を出していますからね。

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