
みなさん、こんばんは。
今日はずいぶんお待たせしていたPARC Audioのアルミドームトゥイーター(DCU-T112A)についてのエントリーです。前回のソフトドームトゥイーター(DCU-T111S)から1ヶ月以上も経ってしまいお恥ずかしい限りです。その分、頑張って詳しく書きますのでお許しを。
ちょっと重複するかも知れませんが、PARC Audioのユニット設計の根底にあるのは振動板の軽量化ということです。これについては過去のエントリーに書きましたのでそれを参照してください。ここで書いたように、私が軽量振動板(特にトゥイーター)にこだわるのは過去での衝撃的な体験からきているもので、理屈と言うより感覚(感性)に近いと思います。もちろん、根っからの技術屋でもある私は自分自身でも検証をしないと気がすまないので、いろんな確認も行いました。ソニーの開発部隊という恵まれた環境にいたこともあり、その後同じドーム振動板で各種材料やいろんな板厚を変更してのテストをすることができ、その思いは次第に確信へとなっていったのです。この私の思いを理解していただくために、ちょっと話がそれますが今までの極薄アルミ振動板を使ったモデルの歴史(ちょっと大げさかな)を先に話させていただきます。
この考え方を実際の商品に展開したのは、研究所時代の開発モデルである4インチコンプレッションドライバーのSUP-T11です。このモデルはΦ100という大口径ドームにもかかわらず極薄のアルミ40μを採用しており、同じ口径で75μを採用していたJBLと比べ、高域特性や耐久性ともに凌ぐ非常に画期的なモデルでした。時にこのモデルでは振動系の構造を工夫し(ソニー特許)、半分近い薄さにもかかわらず耐パワー性は逆に高くすることができていたのです。その音質は、やはり軽量振動板らしい非常にクセの無い、それまでのホーンドライバーとは一線を画すものでした。ちなみに私の30年のスピーカー設計歴の中で代表作は?と聴かれたら迷わずこのモデルを挙げるでしょう。
その後このアルミ極薄振動板を採用した価格の安い量産モデルでの採用は、このSUP-T11の開発から10年近い後の、私がカーオーディオ部隊に異動した2002年のことでした。今から思うと随分長い期間があいてしまったなぁと改めて思いますが、いろいろなアイデアや技術が実際の商品になるには一種のめぐり合わせや運のようなものも必要なのです。もちろん一番大事なのは設計者本人の信念だということは言うまでもありませんが。
当時私が異動した時のソニーのカーオーディオは、最大の市場であるアメリカでサブウーファーはトップシェアであり、単品アンプも非常に好調でした。ソニーは当時から日本国内市場は非常に苦戦をしていましたので、トップシェアと言われても皆さんは意外に思われるかも知れませんね。
ただスピーカーで一番の売れ筋である小型トゥイーターを前に付けたいわゆる汎用型のコアキシャルタイプは音質的に非常に苦戦していたのも事実です。今だから言えますが、異動直後に前年のモデルを聴いた時思わず「なんでこんなものを商品として売ってるの?」と聞いてしまったくらいです。当時のコアキシャルはフィルム振動板を使ったものが主流でしたが、カー用の場合は100度という高温での動作保証をする必要があるため音響的にはレベルの低い耐熱系のポリイミドが使われていました。まぁ他社はそれでもそれなりの音は出せていたわけで、最大の理由は設計力不足ということは否定しようがありませんが。
そこで私は起死回生としてアルミ極薄振動板の採用を決めたのです。カー用は価格が非常に厳しいので金属振動板はかなり厳しいのですが、逆に企画台数が非常に多いというメリットもあるので、先ずはパーツメーカーの社長のところに行き、とにかくフィルム並みの価格で何とかアルミ振動板を作って欲しいというハードな交渉を行いました。量産設計で設計者が一番最初にクリアしなければならないのは、やはりコストなのです。何とか大きな企画台数という事を理由に目標コストでの生産の了承をしてもらい、この時点で私の頭の中では「よし、このモデルは勝てる」との強い予感を感じていました。
そうして数ヶ月をかけた音造りの後発売された新機種は記録的な大ヒットとなり、ヨーロッパの大手チェーン店でも今までトップを取られていたP社を追いやり、トップシェアを奪還することができたのです。このヨーロッパでの話は面白い裏話があるのでまた別の機会にお話しますが、一番音質が受けた理由はやはりそのクセの無い素直な音色だったと思います。これはPARC Audioのサウンドポリシーにも共通するものです。ちなみに後でパーツメーカーの社長からも「この振動板をやって本当に良かったよ」と言われて2重の喜びを感じたものです。
蛇足ですが、私はソニーでの20数年間の中で技術開発、高級単品スピーカー、業務用大型スピーカー等非常に売上的に少ないものを長年担当してきたので、売上や利益という目に見える数字という面で会社に貢献できたのはこのカーオーディオ時代の2年だけでした。もちろん、数字では見えにくいソニーの技術イメージアップやスピーカー全体の技術力向上には微力ながら貢献してきたという自負はありますが、最後の2年で経営面でも貢献できたことは本当に幸せだったなぁとつくづく思います。
さて話を戻すと、その後ソニー退職後サムスンでもこの考え方を採用したものは試作サンプルを残しましたが、やはり彼らには猫に小判状態だったようで、残念ながらこれの量産化には至らなかったのです。その後、現在のPARC Audioを立ち上げてDCU-T112A発売となるわけですが、サムスンがこのサンプルを採用していればPARC Audioやこのモデルの発売も無かったかも知れず、その意味では彼らに感謝しなくてはいけないかも知れません。
何か前置きがすご~く長くなってしまい、皆さんを退屈させてしまったかも知れませんが、次回はこの振動板の核心をお話しますので今日はここまでとさせてください。ではまた。
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この記事へのコメント
アルミ
正直私個人では、ウーハーでアルミ振動板を
使うのは抵抗あるのですが、Parcさんのプログを
見ていると、アルミの振動板を使ったユニット
について、興味が沸いてきてるのも事実です。
何故か、NS-1000Xの音色がオーバラップしてくる
のです。まあF131Wの完成度がいいというのもあり
ますけれど。Parcさんのアルミユニットだから、
みたいな感じです。
今、DCU-F131WとDCU-T111Sで遊んでいますが、
13cmアルミユニットは、Fsの低さと分解能について
興味があります。
で、もし仮に組み合わせるとしたら、111Sと
112Aでは、どちらがいいのでしょうか。
Unknown
Opteron様
いつもコメントありがとうございます。
PARCのユニットだから興味があるというのは、私にとって最高のエールです。アルミWFについては近いうちに紹介記事を掲載しますので楽しみにしていてください。今度は1ヶ月以内には書きますので・・・。(^^;
トゥイーターとの組み合わせは、今日のブログで掲載しますのでそちらをご覧ください。では今後ともよろしくお願いいたします。
Unknown
すばりお話の中で出てきたアルミ振動板のスピーカーは何という型番なのでしょうか?
ものすごく興味があります!
Unknown
BON様
お問い合わせのものは、カー用のモデルのことをおっしゃていると思いますが、このモデルはヨーロッパや一般海外地域では販売されましたが、国内では残念ながら販売されませんでした。モデル名は数機種ありましたが、詳しく覚えておりません。ごめんなさい。
また思い出したらお知らせしますね。
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