P15


15.take様 (千葉県柏市在住)

1.はじめに
 スピーカー(以下SP)のエンクロージャーは頑丈に重く作るのが良いと一般的に言われています。
しかし、寄る年波には勝てず、腰を痛めないためにも軽量化したいと1年程前から考えていました。
そこで軽くてもある程度の音量を出せて、オーケストラ物でもそこそこ楽しめる音質で聴けるような
SP(写真1)を検討し、まずまずの結果が得られましたので紹介します。


2.主な検討内容
(1)スピーカー選び
 10畳内外の部屋である程度の音量を要求するとウーファーの口径は13cm以上が必要と考えました。
今回は軽量化がテーマですので、口径はあまり欲張らず13〜15cm程度の口径としました。

このレンジのユニットは内外のメーカーで優秀な製品が多く選別に苦労しますが、PARCの13cmも含めて
複数のユニットを考えに入れてエンクロージャーを設計することにしました。

でも、最初にPARCのF131PPとT114Sを組み合わせたところ音が気に入ってしまい、
他社のユニットテストは後回しになってしまいました。何時になることやら?

(2)エンクロージャー形式の狙い
 オーケストラをそれなりの音質で楽しむためには特有の癖は禁物です。
帯域バランスが取れていて、中高域のピークが小さく低域の伸びや量感もそれなりに必要です。
これらを軽量なエンクロージャーで実現できないかを検討しました。

以下には細かいことは無視して極めて単純化した今回の考え方を記します。

SPのコーン紙が振動するとその反作用を受けてSPの磁気回路も振動します。
例えば振動系が10g、SP本体が1Kgと仮定し、振動系が10mm動くとSP本体は0.1mm逆相で
動くことになります。

SP表面フレームの面積を振動系の面積と同じとすると、この時の音圧影響は0.1db以下です。
しかし、SPをエンクロージャーに取り付けると事情は一変します。

例えばエンクロージャーを木製で重量4Kg、板厚15mmで計算すると表面積は4000cm2程になり、
振動系が75cm2とすると50倍以上の面積になります。

ご存じのようにエンクロージャーは可聴帯域で多くの共振を伴った振動モードを持ち、
とても集中した質量と考えることはできません。
この癖を持ったエンクロージャーを1KgのSP本体が叩くことになり不要な音が出てしまいます。

エンクロージャーの振動はこの他に空気振動による伝搬があり、これも全く無視できませんが、
どちらかと云うと固体伝搬の方が大きいことを実験的に確かめていますが今回は省略します。

この振動を低下させる方法は思いつくだけでも、厚板化、補強、SP本体にデッドマス追加、
SP2個を背面対抗に結合した振動打消し、砂等を使った振動ダンピング、底板からの取り付け等
がありますが、今回は稀に中高域に用いられることがあるSPのフローティング(以下FSP)を
試してみました。

FSPではSP本体がエンクロージャーを叩かないように、SP本体をエンクロージャーからばね性を
持った物で支えてその共振周波数を低く設定します。

本機では100Hz以上では事実上固体伝搬を1桁以上低下させることを狙いました。
この手法の部品は極めて軽量なので、今回の目的には好適と考えました。構造は写真2に示します。


3.採用した手法等
以下、今回採用した手段を列記します。

(1)  コーン振動の反作用でSP本体がエンクロージャーを叩かないようにFSP方式とする。
(2)  エンクロージャー本体には機械的に強い円形パイプを使う。
(3)  軽量化と剛性強化のためアクリルの5mm厚を使用。
(4)  上記で軽すぎたため、新たに鉛バンド40x600x1tを2本付加。
(5)  バッフル面積はできるだけ小さくする。(200φ)
(6)  複数のSPが使えるよう小さなサブバッフル(162φ)をフローティングする構造にする。
(7)  バッフルステップ補正はパワーアンプの入力で行う。
(8)  空気伝搬によるアクリル共振音の低減に、低硬度シリコンゴム3tをQダンプに使用。
(9)  WFエンクロージャー本体は台からベルトで吊る構造とし、台とは振動絶縁する。
(10)  TWは振動絶縁した台からアームを伸ばして載せ、WFからの振動をさらに低減する。
(11)  TWのアームはスライド式とし、タイムアライメント調整可能とする。
(12)  TWは小さい木球に取り付け音の後方への回り込みを増やす。
    このバッフル効果による音圧の低下はそれ込みでネットワークを考える。


4.主な仕様
W F :            DCU-F131PP PARC製
T W :            DCU-T114S  PARC製
エンクロージャー :    Φ200 x 430 mm 5t アクリル製、 TW用木球:90φ
                リアバスレフ方式、内容積 約11L 
                フローティングの共振周波数: 狙いは20Hz、実測値は約30Hz
クロスオーバー :     電気的  WF:約2KHz(-12 db/oct) TW:約3KHz(変形-12 db/oct)
                音響的  約2.5 KHz -6dbでの合成
                   WF:高域のインピーダンス補正付き
                   TW:共振点(約1.8 KHz)のQノッチ補正付き
バッフルステップ補正 : アンプ入力側で中心周波数約300Hz、前後間4dbの補正            
仕上がり重量 :      5 Kg (WF部+TW部+台)


5.製作結果と特性
製作結果を写真1と2に示します。
写真1は全体の様子、写真2はFSPを実現しているサブバッフルをフローティングしている機構です。
仕上がり重量は全体で5Kgと軽くできました。

軸上50cmの最終の周波数特性を図1に示します。
40Hzからほぼフラットに出ていますが、フローティング構造にすると何故か通常のバスレフよりも
低域が伸びるようです。
サブバッフルは30Hz前後で振動が最大になり、低域ではエンクロージャーも大きく振動します。

その時、バスレフポートとの連成動作により低域が伸びているようですが、
詳細は理解できていません。
ポートの動作も通常のバスレフとは少し異なるようです。この辺りは今後の課題です。

発信器出力でエンクロージャー本体の振動を手で探ると、100Hz以上では殆ど振動を
感じなくなります。それ以下では徐々に振動が大きくなりますので低域の質は今一歩のようです。
中低域〜高域は音の純度が上がっているのではないかと勝手に考えています。

FSPを採用して中域以上の固体伝搬は1桁から2桁低減できると考えますが、
空気伝搬は依然として残っており、僅かにアクリルの共鳴音を感じました。
そこで本体に鉛板2本と制振用に超低硬度シリコンゴム(硬度5)を張り対策しました。
少しは効いていると思います。


6.試聴の印象
(1)人の声の自然さ、音離れの良さはPARCのお約束通りです。
   バッフル面積が小さいせいか奥行感がよく出ます。
   SP回りの空気から音が溢れ出るような鳴り方で気持ち良く聴けます。

(2)オーケストラ物も楽器の分離が良く、長時間聴いていても疲れません。(製作者の欲目?)
  ユニットが優秀なせいか、かなりの音量でも歪感が少ないのでジャンルを問わず聴けそうです。

(3)堂々とした鳴り方で低域の量感はありますが、締りが今一歩といった感じです。
  軽量化の限界か、フローティングの共振点をもっと下げれば改善するのかは今後の課題です。


写真1 全体の様子   
     透明アクリルパイプに2本の鉛板(木目シール付)を張り付け
     中央上部に半透明のシリコンゴムを張り付け(超低硬度5)
     フローティング部の隙間には細いシリコンゴムチューブを挿入
     本体は木製の台からベルトで支えている




写真2 フローティング部分  
     三角形の0.2tエポキシ板を介してサブバッフルを固定  
     支柱を底面3か所と上面3か所に立て、その空間内にSPの重心が入るようにする
     エポキシ板のみなら共振点は20Hz付近、隙間を埋めたゴムで30Hzに上昇
     (どなたか、細くて柔らかいゴムチューブをご存じでしたら是非教えてください。
      4〜6φ程度で厚さ0.5t程度)



図1 軸上50cm の周波数特性(バッフルステップ補正込み)