シアターサウンドについて

2009年03月11日(水)

こんばんは。
前回はカーオーディオ関連でいろいろと書きましたが、今日はちょっと趣向を変えてシアター(映画)サウンドについて話をしてみましょう。今のところはPARC Audioの商品と直接関係があるわけではないですが、内容的には興味深い点もあるかと思いますので、まぁちょっと見てやってください。

私はプロ用スピーカーの開発や商品化を10年ほどやっていましたが、ソニーでもこのような経験が出来た人間はほんとに少数だったので、ラッキーだったなぁとつくづく思います。ご存知のように、ソニーGPにはハリウッドのメジャーの1社であるソニーピクチャーズエンタテイメント(SPE)があります。SPEは旧コロンビア映画で、ソニーがここを買収した時は、アメリカの心が日本人に買われてしまうとかなんとかといろいろと大騒ぎになったことを覚えています。同じように松下(現パナソニック)もハリウッドのメジャーを買収しましたが、こちらはたしかその後手放したようですね。

日本的に言えば、SPEはソニーの子会社で、ソニーは親会社ということになりますが、実際のところ少なくとも私が会った向こうの連中にはそんな感じは全くありませんでした。というか、むしろ逆で、お前ら日本人に映画のことなんか分からないだろうって感じの方が強かった気がします。今でも鮮明に覚えていますが、研究所時代にSPEのサウンド関連のVIPを招き、当時研究所で開発中のサラウンド関連のデモをした時、ソニー側のエンジニアが映画の音についていろいろと話し出したら、そのVIPが顔を真っ赤にして怒り出したなんてこともありました。要するに、お前らが映画の音がこうだとか簡単に言うんじゃないって感じで。とにかく、彼らの映画の音に関しての思いいれというかプライドみたいなものは半端ではなかったです。

まぁそんなことで、私の彼らに対しての第一印象はすげぇ怖い! って感じでしたが、私が直接開発をやっていたプロ用ユニット(SUP-T11やL11の原型モデル)を彼らに聴いてもらうことになった時は私を含め関係者はほんと緊張したものです。正直、私自身もまだ映画用の音はどうあるべきかについて結論を持っていなかったので、先ずは先に開発を進めていたレコーディングスタジオ用のモデルをベースにいろいろとサンプルを作り用意をしました。また試聴ソフトも各種LDソフトやCDソフトなどをいろいろ揃えて、彼らに好きなものを聴いてもらおうということになったのです。

試聴は実際の映画館と同じようにサウンドスクリーン(細かい穴が開いているスクリーンで、全ての映画館でこれを使っている)を立てて、当時のシアターサウンドの実質レファレンスであるJ社のシステムと比較試聴の形で行ったのですが、彼らが選んだソフトはボーカルもののCD(たしかバーブラ・ストライサンドとか)でした。これをほんと結構細かいところまで聴いていろいろとコメントを出していったのです。当時(いや今でも)日本でシアター系のシステムのデモというと、地震の地響きの音とか、ヘリコプターの爆音や爆発音との派手な効果音をよく使うのが恒例でしたが、彼らはそんなものは一切聴かず、やはりシアターでも基本は声なんですね。これにはちょっと驚きましたが、基本的にはHiFiと大きく変わらないなぁというのが私の第一印象でした。これなら勝てると思ったのもその時です。

ちなみに、シアターサウンドはXカーブと呼ばれるハイ落ちの周波数特性規格で全て管理されており、HiFiのようにフラットが基本ではないことは大きな違いですが、それ以外に他のHiFiやPA等とシアター系が大きく違ったのは分解能に関しての反応でした。私の印象では、彼らは分解能に関してだけはあまりこだわりがなく、むしろ非常に敏感なところは声の帯域で変にクセが出たりしないかということでした。そのため、当時ソニーで開発を進めていた4インチドライバーで、映画用には音質的な理由であえて分解能が少し甘いチタンを採用することになったのです。これは、他の用途(HiFi,レコーディングスタジオ、PA等)とは全く逆の評価でした。スタジオでチタンを聴かせた時なんかは、こんな甘いユニットNGだよ!なんて言われたものです。(ということで他の用途にはアルミを採用しました)

あとシアター用で特筆すべきことは、映画製作スタジオと映画館のプロの現場ではサウンドスクリーンが前提で音造りがされているにもかかわらず、家庭用ではほとんどがサウンドスクリーンは使用していないということです。このサウンドスクリーンの有無がどうして大きな問題になるかというと、サウンドスクリーンを使うプロの現場では当然フロントの3ch(ソニーのSDDSでは5ch)のスピーカーは全て同じもので、なおかつスクリーンの真後ろに設置すなわちスクリーンから音が出るというのに対し、家庭用では一番重要なセンター用スピーカーがスペース的な問題から一番いじめられてレベルの低いものになることが多く、また音場定位も設置位置の関係でプロのように横一列ではなく、V字になってしまいます。SPEとの話でも、映画で一番大事なのはセンターchでそこには70%くらいの情報が入っていると彼らがよく言っていました。これからAV系をやられる方は、是非センターchにしっかりしたスピーカーを選ばれることをお勧めします。

その後、シアター用の開発は順調に進んでいき、アメリカのシアターの聖地であるアカデミーシアターでJ社モデルとのブラインドでの比較試聴なんかもやったりしました。ちなみにアカデミーシアターというのはアメリカのシアターサウンドの基準であり、その運営は非常にシビアで、全ての機材は映画関係者と音響機器メーカーの者から形成されているアカデミー委員会というところの承認がないと変更ができないことになっています。先のJ社とのブラインドテストでは、ほとんどの委員がソニーの方を良しとしてくれたのですが、委員の中にいるJ社関係者から試聴の方法(スピーカーの設置位置等)についてクレームが出され後日再テストを行うことになったのですが、その後J社が今まで設置していた2wayタイプのシステムを3wayの全く別物に変更してしまったため、2way用ユニットしか開発してなかったソニーは事実上そこでギブアップということになってしまったのです。でもそんな状況でも、SPEは今でもソニー製のユニットを使ってくれており、やはり職人魂みたいなものを感じましたね。というのは、彼らは3wayタイプの音は全く評価していなかったのです。

最後に日本の映画館はどんな状況かというと、ほんとピンキリでレベル差が大きいと思います。真面目にやっているところは、いい音で出していますが、中にはサブウーファーが断線しているのに気がつかずにそのままなんていうひどいところもあったりします。ちょっと具体的な名前は書けませんが、どうせ同じ料金で映画を見るなら、できるだけ設備のいいところで見られることをお勧めします。と言っても、映画館に入る前にどうやって判断するのかってことがありますよね。これについては、先ずはその映画館がTHX認証になっているかどうかを見てみるのが一番簡単かと思います。ここで勘違いされるといけないので念押ししておきますが、私はTHX認証の映画館がその他の映画館より全ていいなんて言うつもりは毛頭ありません。認証無しでも本当にいい音の映画館もあります。また実際の経験で、スピーカーなどはTHX認証に入れるために少し音質を犠牲にする場合もまれにあったりします。ただ、THX認証を取るためには映画館のSNをはじめとして各機材の細かい規定を守らなければならないため、ある一定の基準は確保されますので、大外れということは避けられますので、参考にしていただければとのことです。 では今日はこの辺で。 ——————————————————- シアター関連でおもしろいことを思い出しましたので追記しておきます。 それはSPEとソニーの上層部、開発GPとのミーティングでの出来事です。その日のテーマは今後シアター用のスピーカー開発をどうするかということだったのですが、この会議でソニー側のあるマネージャからSPEに対して 「日本側の開発チームはシアターの音なんかよく分かってないようだし、今後本当にこのプロジェクトをやるべきなの? 本音を教えてよ。」 などととんでもない発言が飛び出したのです。この発言の主は、SPEと開発チームの間でコーディネイトをするような役割をしているソニー本社のマネージャーだったのですが、長年ソニーでスピーカー関連の仕事をやっていると、このような「後から鉄砲玉が飛んでくる」状況はよく経験します。早い話、ソニーのスピーカーに対して最も厳しい(はっきり言えば信用してない)輩は、ソニー社内に想像以上に多かったです。 でもここで奇跡が起こりました。世の中、捨てたもんじゃありません。まだ我々のサンプルをほんの少ししか聴いてないSPEの最高責任者が、そのくそったれマネージャーに放った一言。 「あんた、何を言ってるの? もう我々は既にプロジェクトをスタートしてるし、うまくいくと思ってるよ。」 まぁうるさいことで有名なそのマネージャーもそう言われるともう何も言えず、沈黙するしかありません。結局その一言で、シアタースピーカープロジェクトは正式にGoとなったのです。いやぁ、この時だけはSPEのメンバーに抱きついて、思いっきり熱いキスでもしたかったくらいです。今から思うと、この手のトラブル(身内からの攻撃)を救ってくれたのは、我々のモデルを使ってくれる社外のユーザーの方たちの熱い思いだったことが多く、いつも思うのはやっぱりいい商品を作ることに尽きるなぁということでした。PARC Audioもこれからいろいろと壁にぶち当たると思うのですが、是非ユーザーの皆様の熱い応援メッセージに救われながら、前進していきたいと思います。

この記事へのコメント

またろう 2009.3.12

Unknown
こんにちは。

こないだのお返事だとしばらくはプロ用ユニットの話はないのかな~残念!なんて考えていましたが、早速充実した内容のコラムでうれしいです。

ダイアフラムにチタンを使ったわけは、高耐入力のせいと思ってましたがそんな裏事情があったんですね。

私はアルミのT11、チタンのT14共に大好きです。これからも時間がある時にプロ用ユニットについての貴重な情報を書いてくださいね。

国産の2インチドライバーや40cmウーファーは日本の誇りですから。

mako 2009.3.12

勉強になります
そうですか、不勉強で、Xカーブは存じませんでした。

やけにキンキン言うサントラ盤は、そのXカーブのせいなんですね。

トーンコントロールでおもいっきり高音を絞ると、ちょうど良いバランスになりました。

PARC 2009.3.12

Unknown
またろう様

すみません、ついつい勢いで書いちゃいました。(^^;
ただT11関連は沢山ありすぎなので、ボチボチと書いていきますね。

チタンを採用した理由の中に、耐久性の件ももちろんありました。アルミはチタンに比べるとそのままだと非常に弱いので。ただPA用では、音質最優先でアルミを頑張って採用していました。

>国産の2インチドライバーや40cmウーファーは日本の誇りですから。

ありがとうございます。ビジネスとしてはなかなか厳しかったですが、技術的には海外製のものには決して負けていなかったと今でも思っています。でも今後あのレベルの商品を開発するのは難しいでしょうね。開発費がかかるわりに、売上は大したことはないので。

PARC 2009.3.12

Unknown
mako様

全てのサントラ盤がXカーブの逆補正をしているかどうかは私は詳しくないですが、ちゃんと管理された映画館では一般の音楽CDをかけても普通に聴くことが出来ますね。もちろん、HiFi的なバランスではないですが、こういう音もありだよなって感じです。出来損ないのHiFiシステムよりは、よっぽど聴いていて気持ちよくなります。ちなみに私は映画館でのテスト試聴では、いつものCDを使っていました。部屋そのものについては、映画館は非常にデッドで、音響的には恵まれていると言えるかも知れません。

GX333+25 2009.3.13

ぷっ!(失礼)
PARC 様

 思わず吹き出してしまいました。(^^ゞ

>「後から鉄砲玉が飛んでくる」状況

 いやぁ、これはもうほんと、常態といっていい状態で。昔から「前から飛んできた鉄砲玉で死んだ司令官よりも、後ろから飛んできた鉄砲玉で死んだ司令官の方が多い」っていうくらいですから。

 もっとも、「横から鉄砲玉が飛んでくる」状況はもっとたまりません。

 なんかスピーカーとは縁遠い物騒な話になってしまいましたが、私は断じて戦中派じゃないですよ。(^_^;)

PARC 2009.3.13

Unknown
GX333+25様

>昔から「前から飛んできた鉄砲玉で死んだ司令官よりも、後ろから飛んできた鉄砲玉で死んだ司令官の方が多い」っていうくらいですから。

まぁこれも私の人徳の無さからくることかも知れませんが、結構この手のことは多く経験させていただきました。

>もっとも、「横から鉄砲玉が飛んでくる」状況はもっとたまりません。

これもありましたね。(^^;
この時も、ユーザーの方に助けられました。これについては、いずれまた書きたいと思います。

M田 2009.3.13

鉄砲玉
 僕もです。あちこちから飛んできてバンバン被弾してます。撃ち返してやりたいのですが、大人なので今の所はガマンしてます。(爆)

PARC 2009.3.14

Unknown
M田様

>撃ち返してやりたいのですが、大人なので今の所はガマンしてます。

私はまだまだ子供なので、ガンガン打ち返していました。(笑)

GX333+25 2009.3.14

Unknown
M田様

>撃ち返してやりたいのですが、大人なので今の所はガマンしてます。

私は貧乏所帯なので、精密射撃専門でした。(笑)

M田 2009.3.14

サウンドスクリーン
GX333+25様
>精密射撃専門
事情は存じませんがニュアンスに大笑いです。

 サウンドスクリーン、おおいに興味がありました。センターSPを映像の真ん中に持ってきたいからです。ところが100インチ程度のサイズでは映像に比べてサウンドホールが大きいためか、特にHD映像(ハイビジョン)ではモアレが出易いようで普通のスクリーンになってしまうようです。
 で、PARCさんとホームシアターと言えば、あの方へバトンタッチします。^^/

keik 2009.3.14

Unknown
 サウンドスクリーンまで行くと設置の自由度はかなり上がるんでしょうけど、「普通の」家庭には入らんですよね、色々な意味で(笑)。

 シアターの音に関しては、アマチュアでも沢山映画を見る人は、やはりこのエントリーに書かれているように声を重視すると思います。なんだかんだ言っても人間の芝居を見に行っているわけですから。自分の場合も「声=BGM>効果音」って感じです。

 フルレンジ5本で1年やってきて、つながりの良さを堪能しているのですが(BD「AKIRA」のBGMなんか凄いつながり方をしました)、最近この位のサイズだとむしろ「センタースピーカーのランクを一段上げるべきではないか」と感じています。
 センターSPって常時フロントSP2本と2対1の喧嘩をしていて、モノによってはリアも含めて4体1の喧嘩になったりするんですよね。特にミュージカル仕立ての映画で、主役がソロで唄うシーンなんかだと、センターSPの鳴り負けが気になる時があります。

センター2本にして画面を上下から挟もうかと、一度は真剣に検討したのですが、どうにも設置が出来そうになくて、他の手をいろいろ考えていたのですが、この前のA&Vフェスタでウッドコアキシャルを聴いて、「これをセンターSPにしてみたらどうだろう」という考えに取り憑かれました。ウーファースルーだし、なんとかラックに収まりそうだし、かなり良さそうな気がしています。

というわけで、スペック公開とか、いろいろ早くよろしくお願いします(笑)

PARC 2009.3.14

Unknown
keik様

>センター2本にして画面を上下から挟もうかと

私はこれ真剣に考えてます。(笑)
真面目な話、上下にすることで擬似的に音像がセンターにくるので、下に置く置き方よりはかなりいいのではと思ってます。画面が大きくなるほど、センターの定位に違和感を感じると思うのですが・・・。ただ、設置はやっぱり大変ですね。(^^;

>この前のA&Vフェスタでウッドコアキシャルを聴いて、「これをセンターSPにしてみたらどうだろう」という考えに取り憑かれました。

それはいいアイデアです! でもセンターをコアキシャルにしたら、たぶん他のchもコアキシャルにしたくなると思いますよ~。なんちゃって。

スペックや推奨BOX情報等は、今月末くらいにはupできるかと思います。もうちょっとお待ちください。

たんた 2009.3.17

いやあ
開発舞台裏の苦労と身内との闘いが壮絶ですね。
SONYのシネマサウンドはお台場しか知りません。BOSEも少数、やっぱりJ社が日本はメインみたいです。

>試聴は実際の映画館と同じようにサウンドスクリーン
>(細かい穴が開いているスクリーンで、全ての映画館でこれを使っている)

メイヤーサウンドのスピーカーを使っている映画館はスクリーンの横や上方にスピーカーを置いて穴なしスクリーンを使用しています。かなりの奇特なセッティングですよね。

PARC 2009.3.17

Unknown
たんた様

お台場は当初ソニー直営の映画館の予定でしたが、途中から東宝系に変更になり、かなりドタバタでした。

>やっぱりJ社が日本はメインみたいです。

私の知る範囲では、日本はJ社よりもE社の方が多かったような気がします。映画館ビジネスは本当にコストが厳しいので、どうしても先ず価格ということになることが多いようです。ソニーは全て日本でユニットを手造りで製造していたので、コストではとても競合できなかったですね。

メイヤーを使っている映画館があるとは知りませんでした。でもサウンドスクリーンを使用してないのは、ちょっと微妙かなぁ。

メイヤーは、PA関連で導入をした時にあちこちで競合していました。ユニットは、J社のものを自社で改造して使っていたと記憶しています。ほんと懐かしいですね。

Sohms 2024.2.7

映画のスピーカーと言えば、TADでやってるところってまだあるんでしょうか。

スタジオだとTADが入ってるところは多いとか、スカイウォーカーサウンドでTAD使ってたから一緒にTADシネマスピーカーシステム作ったとかは聞きますが、実際に「ここが採用している」とか「こういう音だ」とかは聞かないなあと

parc 2024.2.8

Sohms様

最近の情報はあまり知らないので、あくまで私がシアター用を担当していた時の話をすると、TADをシアター用で採用するところはあまり聞いたことがありません。

シアター用で採用されるためには、品質や性能が基準をクリアしていることは当然ですが、それに加えてコストや、実績、インストーラー業者との連携(政治的?)も非常に重要です。

ソニーの場合は、一応GP会社にソニーピクチャーズがあったので、その点では少しだけ恵まれていたかも知れません。

まぁそれでも、JBLの牙城を崩すことは難しかったですが。

TAD以外では、当時ボーズも鳴り物入りでシアターに参入しようとしていましたが、少なくとも私がやっていた時点ではあまり結果は出ていなかったように思います。

まぁシアター=大型ホーンシステムというのが常識だったので、それ以外での参入はやはり厳しかったようですね。

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