カーオーディオ用スピーカーについて(3) ヨーロッパの音造り

2009年03月05日(木)

こんばんは。
今日はカーオーディオにおけるヨーロッパの音造りについて、私の体験談をお話したいと思います。何だかタイトルだけを見ると、すごく大げさな話に見えますが、まぁ実際にあった本当の話なので、こんな感じかぁという程度で読んでいただければと思います。

これは私がカーオーディオ用スピーカーを担当していた2002年~2003年の頃の話でちょっと古い気もしますが、国別の音の傾向が数年でそんなに簡単に変わるとも思えないので、おそらく今も基本的には変わってないのではと思います。

既にだいぶ時間も経っているので内容的にも時効かと思いますので、ちょっと当時の経緯を書いておくと、当時ソニーのカーオーディオスピーカーは、海外向けの普及価格帯のコアキシャルモデルや5角形サブウーファーは絶好調でしたが、音質を前面に訴求すべきミドルレンジ以上のセパレートタイプ(ネットワーク付き2wayモデル)ではまだまだ市場に認知されておらず、次のターゲットとしてこれを重点的に攻めようという計画でした。そこでこのモデルを進めるにあたり、最初に選んだ地域がヨーロッパだったのです。ヨーロッパを最初に選んだ理由は、当時の営業サイドの事情もありますが、やはり最大の理由はこの市場が一番音質にシビアで、評価を受けるには最適との判断があったためと記憶しています。

私はホームオーディオも長年担当していましたが、ホームオーディオ時代は国内向けのモデルが中心だったので、海外それもヨーロッパの複数の国での音造りを同時に体験できたことは本当に貴重なことで、今でも非常に強く印象に残っています。

さて先ず最初にお話したいことが、カーオーディオ用のスピーカーの評価を海外でどの程度真面目にやっているのかということです。私自身は正直なことを白状すれば、やるまではどうせカー用だから適当に聴いているのではという印象も少し持っていたのですが、実際に現地で話をしてみるとホームオーディオ以上とも言えるような非常にシビアで真面目な評価をやっていました。これには本当に驚きました。視聴会も実車実装でも行いますが、先ずは通常の室内の試聴室で標準箱に入れてホームと同様に評価します。また評価しているポイントも、バランスや音質の細かい点等、ホームと比べても何の遜色も無い感じなのです。いやむしろ下手なホームよりもシビアかも・・・・。

試聴会の参加メンバーは、その地域の代表的なショップの音にうるさい連中や、販社の中でも音にシビアな連中が中心で構成されていましたが、私の第一印象は、「う~ん、おぬしなかなかやるな!」という感じで、結構耳は鋭かったです。

さてちょっと話が前後しますが、ヨーロッパと一言で言っても沢山の国があり、全てを同じモデルで攻めるのは無理との判断で、ソニーとしては異例の各国に特化したその地域専用モデルをやろうとの意欲的なトライだったのです。最初に選んだ地域は、フランス、イタリア、UK(イギリス)、ドイツの4カ国。この中で最大のマーケットはドイツですが、逆に一番難攻なのもドイツであり、先ずは他の3カ国を優先的に進めるということになったのです。くどいようですが、この話は6年以上前の話であり、今のソニーの営業戦略とは関連はありませんので、その点誤解なきようにお願いします。

ということで、いよいよ本題の音の話になりますが、先ず驚くのは一言でヨーロッパと言っても各国の音の傾向はかなり違うということです。よく日本人はヨーロッパトーンという表現を使います(私もそうです)が、実はこれもかなり微妙な感じなのです。私の受けた印象をざっくりと書いてみると下記のようになります。

1)フランス
とにかく中域~中高域(特にボーカル帯域)のクセや固有音について、ものすごく敏感。この帯域にちょっとでもクセがあると、まずOKは出ない。逆に高域の伸びについては比較的寛容。3国の中では一番マイルド系で、聴き疲れしないという点では一番ではと思います。

2)イタリア
中域のクセや固有音に対してフランスほどではないにしてもやはり敏感だが、圧倒的に重視するのは中域(ボーカル帯域)のハリ。ここがしっかりと前に出ないと、先ずOKが出ない。反面、高域はかなりハイ落ちでもOK。そのため、特性はかなりかまぼこ状態。この点は本当にフランスとは正反対で、隣同士の国とは思えない差でした。実際に面白かったのは、フランスで試聴会を行い、現地で特製調整を行い絶賛されたサンプルをそのままイタリアで聴かせると、全くNGとの評価。そこで思い切って中域のバランスを上げ、高域を抑えると、みんな大喜びで大絶賛。でもその時同席していたフランス人のソニー営業マンは、親指を下にしてなんだこの音は!って感じの表情。いやぁほんと面白かったです。この時、私は音質だけで言えばスピーカーでヨーロッパ共通モデルは無理だなぁと痛感した次第です。

3)イギリス
全体のバランスはどこかの帯域を強調したり、抑えたりというよりフラット重視で、SNや音場定位等ほんと細かいことまでいろいろとコメントを言ってきたのがイギリスで、もう完全にHI-FIの世界という感じです。私の印象では、俗に言うヨーロッパトーンというイメージが一番近いのがこの国かなぁとも思いました。極論すると、全体のイメージとして暗めであり、聴いていてあまり楽しいという感じではないですが、正確な音って感じでしょうか。イタリア人の楽しい音でなけりゃ意味ないじゃんって感じとはほんと正反対でした。

以上が私の印象ですが、違うようで各国で共通していることは、ボーカル帯域に変なクセがあるものはバランス以前にNGとなること。これってすごいことだと感心しました。やはり声は音の基準ということかも知れません。初めて現地で試聴会をやった時は、まだ彼らがどんな音を望んでいるのか全く分からないので、とにかく自分としてこれが一番ではというものを中心に、それをわざと派手めとおとなしめに大きく振ったサンプルを持参したのですが、本質的にクセがあるユニットはいくらネットワークをいじってもOKが出ないという、ある面まともな結果(評価)が得られ、あらためてヨーロッパの音に対しての造詣の深さを思い知らされた感じでした。

最後に私自身が一番相性が良かった国はということですが、性格はかなり違うもののフランスとイタリアにそれぞれ魅力を感じました。ただイタリア向けのバランスは、今までの国内での音造りではありえない感じで、私が退社後にこのイタリア向けモデルを聴いたソニーのセット担当の連中が、「ソニーでこんな音のスピーカーがあったんだ。すごいね!」と驚いていたという話もありましたね。そう言えば、先日A&Vフェスタで会った昔の同僚にこのヨーロッパ向けの一連のセパレートモデルの今の販売状況は?って聞いたら、「今でもロングランで当時と同じような数が売れていますよ。」とのことで、ほんと苦労したかいがありました。

でもってPARCの音の方向はどっちということですが、強いて言えばフランスかなぁ・・・。ウッドコーンなんかは、ちょっぴりイタリアも入ったりしてますが。

では今日はこの辺で

この記事へのコメント

GX333+25 2009.3.6

所変われば、「音」変わる。
PARC 様:

 お久しぶりです。

 興味深いお話しでした。すこし微笑みながら思わずうんうんとうなずきつつ拝見しました。いくら共通の要素はあるといっても「ヨーロッパ」とひとくくりにするのは、無理があると思います。たとえば、今日のお題では詳しくふれられていなかった「ドイツ」なんてのは「ドイツ」とひとくくりすること自身に無理があるというか無謀とさえいえるところがありますから。

 もっとも、そんなに事情に詳しいわけではないのですが、日本と大きく違うのは、最近でこそ減ってしまって(そのこと自身は寂しいのですが)はいるものの、日本のあちらこちらの電気屋さん、特にちょっと大き目の店ではほとんど必ずオーディオとかHiFiとか銘打ってお客さんを呼び込んで聞かせているのに対して、欧米ではそんな趣味はかなり「コア」な趣味に属するんじゃないかな、ということです。

 いいことか悪いことかはにわかに判断できませんけれども。

PARC 2009.3.7

Unknown
GX333+25様

コメントありがとうございました。ドイツについては、ホームオーディオ担当時に少し関わったことがあるのですが、日本人の感覚で言えばかなりハイ上がりのバランスで、ドイツ語のシュとかッシ(うまく表現できません)の破裂音のような発音がよく聞けないとダメなのかぁと思いました。個人的には、一番苦手のバランスです。

ただ当時ソニーの現地法人で設計をやっていたエンジニア(ドイツの有名オーディオメーカー出身)が、自分のモデルを東京に持ち込んでデモした時に、「向こうで聴いていた音と全然違う!」なんて困った顔をしていたこともあるので、試聴室等の環境の違い等で、日本で私が聴いた音は現地の音とは違うのかも知れませんね。音の世界は恐ろしい。

M田 2009.3.7

お国柄
 とても興味深いです。
 その国でどんな音楽が愛されているかがまずポイントですかね? イタリアと言ってもオペラやカンツォーネばかり聴いてる訳でもないでしょうし、フランスの人々がCDで聴く音楽の果たして何%がシャンソンでそれ以外はどんな割合なのか? 
 国民的に愛されるジャンルと家やクルマでわざわざオーディオセットを揃える人の好みも異なるでしょうし、スイスなんて言語が変われば好きな音楽の傾向も変わるのか?
 うーん、興味は尽きません。次号に期待します。

M田 2009.3.7

輸入製品のエージング
 それと感じたのは輸入品はお国元と輸出先で温度や湿度が変わって音が変わるならエージングの要素にも「気候に慣らす」という意味もある訳ですよね。
 開発や生産を自国でやるか相手国や第3国(中国のどの地域)でやるか・・各国のエンジニアはどこまで研究して製造しているのでしょう???

PARC 2009.3.8

Unknown
M田様

現地で彼らが試聴に使用していたCDは、非常に一般的なものばかりで、特にその国固有の音楽というのはあまり無かったと記憶しています。ただ全般的に言えるのは、やはりボーカル系が中心だったと思います。

>次号に期待します。

う~ん、カーオーディオの件は今回で一応終わりのつもりだったのですが・・・・。
海外つながりということでは、プロ用をやってた時のアメリカ編なんていうのもちょっとあったりしますが・・・。

>開発や生産を自国でやるか相手国や第3国(中国のどの地域)でやるか

一番影響するのはやはり視聴する環境(試聴室や温度湿度)ではと思います。以前聞いた話ですが、ヤマハでは昔海外の代表的な部屋をイメージした試聴室を製作し、使用する家具やカーテン等も現地のもので揃えて音の確認をしていたそうです。ソニーでもサイズを変えた複数の試聴室を使ったりしてましたが、さすがにここまで(現地仕様の試聴室)まではやってなかったですね。

ちなみに映画用のプロ規格として有名なTHXでは、映画館の音響的なスペックを細かく設定していて、それに合わせて音造りをしています。日本の映画館でも、THX認証を持っているところが結構ありますね。

ヤマヤマ 2009.3.8

懐かしい
はじめまして。
関西方面に住むオーディオ好きのヤマヤマと言います。
その時期にカーオーディオにはまってました。アンプは3台、スピーカーはフロント・リア共に3ウェイ+スパーツィーターという構成でした。
その中でドイツのマクロム・マックオーディオ、イタリアのPHD、フランスのフォーカルなどを使用していました。確かにミッドレンジに使っていたユニットが多かったと記憶しています。これらのユニットは中域に独特の雰囲気があり、好んで使っました。
確かナカミチのCDチェンジャーの中身を確かソニー製やったと思います。当時の通っていたお店でチェンジャーをどれだけ振り回しても音が途切れなくすごいと感心した事がありました。
申し訳ないのですが、ソニー製のユニット高かったので…使ってません。

M田 2009.3.8

Unknown
>一応終わり
了解しました。(笑)
 小川のせせらぎや虫の声もノイズでなく心地よいと捉える日本人の耳(脳)ってまた欧米とは異なる好みや特性があるのかもしれませんね。
 面白い話題、有り難うございました。

PARC 2009.3.8

Unknown
ヤマヤマ様

フォーカルとは懐かしいです。他の2モデルは別として、フォーカルは代表的な競合モデルとして随分聴かせていただきました。非常に真面目な音造りで、競合モデルとしてはやりやすかったです。確かにバランス的にはフランス的と言えるかも知れません。

国内用のスピーカーは今は発売していないので一応時効ということで話をすると、当時のモデルは取付性を最優先していたため非常に薄型のものが多く、音質的には結構厳しいものが多かったように思います。

私は直接国内モデルを担当することはなかったので、具体的なことは言えませんが、少なくともヨーロッパ用として発売したセパレートモデルはかなりコストパフォーマンスの優れたものだったと思います。

PARC 2009.3.8

Unknown
M田様

楽しんでいただけたようで、何よりです。音質については各国に共通する基本的なところと、趣向の範囲に属する部分と両方のところがあるように感じます。

ちょっと脱線しますが、いろいろなスピーカーを聴いていて趣向の範囲を超えて商品としていかがなものかというようなモデルもたまにありますが、設計を行う時にいかに楽器的なものとはいえ、音響変換機として最低限のレベル(性能)は確保していきたいと常に思ってやっています。

またろう 2009.3.9

Unknown
はじめまして。

GTサウンド経由でふけさんのお名前はぞんじていましたので、以前からブログ読ませてもらってます。

私はSUP-T11、L11,T14などを自宅で使ってますので、これらプロ用ユニットの話楽しみにしてます。では。

PARC 2009.3.9

Unknown
またろう様

SUP-T11、L11,T14については、話をし始めるとこのブログなら1年はもつほどいろいろな話(中には書けないものも結構ありますが)がありますが、あいにくこのクラスのユニットをPARC Audioで商品化する予定は今のところ無いので、PARCのメインの話の切れ目などで少しずつお話していければと思います。

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