アニールについて

2013年08月07日(水)

こんばんは。今日は久しぶりに技術ネタです。

 

ユニットの音質改善策にはいろいろな手法がありますが、その一つにアニール処理があります。ソニーはこれが大好きで、私もいろいろなモデルで随分この手法を採用しました。

 

このアニール処理とは、焼きなまし(徐冷)とも言いますが、具体的には部品を一定時間高温にして、その後徐々に室温まで時間をかけて冷やしていくという処理です。

 

その目的は、部品を製造(加工)する時にできる内部歪みや残留応力を低減することで、お堅い表現をすれば 「加工で生じた内部歪(結晶格子の乱れ)を熱拡散により解消する事」ということになります。

 

そのため本来はこの熱処理を行うためには、その素材の結晶が動くような温度にする必要があるため、金属などではかなりの高温(例えば鋼材だと900℃以上とか)に上げる必要があります。

 

でも~

そんなに高温にすることは大変なんですよねぇ。磁気回路用の鋼材部品などは、表面にメッキがしてあるので、こんな高温にしたらメッキが一発でアウトです。(^^;

 

そのためソニーでの処理温度はメッキにダメージがかからないように、もっと低い温度でやっていました。(具体的な数値は企業秘密ということで)

 

理論的に言えば、そういう低い温度では内部の結晶変化は無いはずで、当然音質の変化も無いはずなのですが・・・・・。

 

 ところが~ 、実際には音ははっきりと変わります。これがスピーカーの面白いところ。具体的な変化としては、歪み感が取れて音質が柔らかい方向(と言ってもフニャフニャということではありません。)で、より自然な音になります。大げさに言うと、フェライトの音がアルニコの音になる、っとまぁこれは言い過ぎですが、その方向に変化することは事実です。

 

ここに面白い話があります。ソニーがAPMという平板スピーカーで採用していたアルミハニカム振動板を、物凄い低い温度(100度以下)でアニールして音質が良くなると言うエンジニアがいたのですが、社内でそんな低い温度でアニールの効果が出るはずがないとの議論になったんですね。

 

そこでそのエンジニアはアニールしたものと、何も処理をしない複数の振動板を用意し、完全にブラインドテストで音質評価を皆の前で行い、なんと全数アニールの有無を言い当てたのです!

 

それまで懐疑的だった者も、目の前でこの結果を見た後は何も言えなくなりました。事実は小説よりも奇なり!

 

まぁ後の推測としては、アルミそのものが変わったのではなく、アルミの表面に塗布されているコート材や、ハニカムの接着に使われている接着剤がアニールされたのではとの話もありましたが、いずれにしても効果があることは間違いない事実でした。

 

私もコストが許されるモデルでは、磁気回路やフレームなどいろいろなものにアニールをかけましたが、今まで経験した中でアニールをして悪化したものはVCくらいでしたね。当時は試作室で部品を片っ端から恒温槽に入れてアニールをかけて、恒温槽が使えないと同僚からクレームが出ていたのが懐かしいです。(笑)

 

パークでも本当はこれをやりたいのですが、中国のメーカー事情でまだ実現できていません。実は徐冷をするためにはしっかりした恒温槽がないと直ぐに室温に落ちてしまうのできちんとアニールがかからないのと、徐冷するためには半日以上恒温槽を占領することになるので、なかなか生産効率的に厳しいものがあるのです。でも今後は何とか復活させたいと考えていますので、また実現したらお知らせしますね。

この記事へのコメント

jun 2013.8.8

本当に技術ネタ久しぶりですね。おもしろいです。
何がって、「???」がふくらむことがです・・
思うに、(私にはあり得ないけど、)人によっては、破壊寸前までパワーを入れて音楽を聴く人が、昔は、いたようですが、こんな時ボイスコイルやボビンの温度は何度くらいまで上がっていたのかと言う疑問です。
「焼き鈍しをやって悪化するのはVC」と書かれている部分に思わず反応してしまいました。
「悪化する」とは具体的にどのような状況を指しているのでしょうか?そして、入力の限界に近い聴き方をすることは、ユニットに悪い影響を残しますか?

faston07 2013.8.8

parkさま

いつも興味深い話を面白く読ませていただき、ありがとうございます。
私事ですが、70年代後半に某V社のエンジニア様より話を伺う機会があり、その中に「銅ショートリング(またはキャップ)へのアニール処理」が出て来た記憶があります。
こちらの知識が今に増して乏しい時期でしたので、突っ込んだ質問ができず、話全体もうろ覚えなのですが、印象に強かったのは「(音質向上効果を確認して)これは大発見! と喜んだのもつかの間、参考に分解した某J社のユニットでその処理が行われているのを確認して、がっかりした」というオチの部分でした。

今回のお話、部品点数が少ないSPユニットでも、そうした過去の基礎研究の積み重ねの上に作られていることを改めて認識させられます。また「現在は実現できていない」自社製品の弱点について記されているところも(三点接着もそうでしたね)、その姿勢に共感するところ大であります。
これが大きな組織であれば、社内の広報担当部署などから「この話は勘弁してください」と横やりが入るのでは・・・。

ただこういう話を読むにつけ、心配になるのは「技術の伝承」というところですね。焼き鈍しや焼き入れというと刀鍛冶を思い出しますが、徒弟制度と無縁のオーディオ業界では、埋もれる技術も多そうな気がします。
平面振動板のように、メーカー自身が地中深く埋めてしまった製品でも、そこから派生した技術は多かったように思いますので、いつかまたその辺りの話などお聞かせいただければと思います。

あと個人的に是非伺いたいのがBCの話で、これは過去の話だけでなく、御社製品(「PARK-T11BC」とか)への搭載ができたら、と期待しています。既に構想にはあるものと推測しますが。

parc 2013.8.8

jun様

>こんな時ボイスコイルやボビンの温度は何度くらいまで上がっていたのかと言う疑問です。

VCの内径や入力にもよりますが、小口径のVCだと100℃オーバーなどは普通で、状況によっては200℃近くになることもあったりします。通常MAXパワーテストなどでは、最後はVCが真っ黒に炭化してご臨終というのが一般的なパターンで、その時は300℃近くになったりします。前にも書きましたが、スピーカーは音の出る電気コンロですから。(笑)

>「悪化する」とは具体的にどのような状況を指しているのでしょうか?

先ず最初に、アニールをするためにはかなり時間をかけて(最低でも半日くらい)温度をさげていかないといけないので、通常の試聴条件でVCをアニールすることは出来ません。

そのためVCをアニールするには、VC単品で恒温槽に入れて行いますが、悪化したというのは音が腰砕けになるというか、悪い意味で甘い芯のしっかりしない音になるといった感じです。おそらくこれは線材がアニールによって少し柔らかくなったことが影響してるのかも知れません。前にも書きましたが、VCの線材の機械的な強度(剛性)は音質に直結しますので、重要です。

>入力の限界に近い聴き方をすることは、ユニットに悪い影響を残しますか?

これの悪影響としては、支持系(エッジ、ダンパー)が機械的に早くへたるということでしょうか。他社モデルでは振動板にシワが入るモデルもあったりするようですが、いずれにしてもそのユニットで余裕のある範囲で使われるのが長く使うコツだと思います。

parc 2013.8.8

faston07様

>これが大きな組織であれば、社内の広報担当部署などから「この話は勘弁してください」と横やりが入るのでは・・・。

たしかにS社でこんなことを書いたら大問題かも知れません。(笑)
でも正直に技術的なことを、弱点も含め書いていくことが、結果的にはパークに対しての信頼度を上げてくれるのではと思い、今後もこの姿勢で続けていこうと思います。

>徒弟制度と無縁のオーディオ業界では、埋もれる技術も多そうな気がします。

私が新人のころは、先輩のやることを見てその技術を体で覚えるといった感じでしたが、今はそんなことをやってる会社はないかも知れませんね。その前に教える側のベテランエンジニアが既に会社にいないということもあったりしますので・・。(^^;

>平面振動板のように、メーカー自身が地中深く埋めてしまった製品でも、そこから派生した技術は多かったように思いますので、いつかまたその辺りの話などお聞かせいただければと思います。

分かりました。また機会を見て思い出したものがあれば書いてみたいと思います。ソニーはほんといろんなことをやってましたからねぇ。

>御社製品(「PARK-T11BC」とか)への搭載ができたら、と期待しています。

残念ながらその可能性はほとんどありません。
BCはソニーと味の素との共同特許の材料で、味の素が素材を生産していますが、多分うちのようなガレージメーカーの使用数量では相手にしてくれないのではと思います。

ちなみに商品化されているBCにも振動板にする時の製法で大きく2つのGPに分かれます。

一つはSS-A5やソニーの高級ヘッドホンで使われたタイプで、BC100%でそのまま使うものです。これは成形にも非常に特殊な方法が必要で、私が知る範囲ではソニー以外では無かったように思います。とにかく、物凄く高価になりますので。

この手法で作られるものは非常に極薄、超軽量でヘッドホンには向いていますが、スピーカーユニットに使うことを考える変わり者は私ぐらいではと思います。(笑) ちなみにこの100%タイプのBCは、私は今でもソニーが開発した音響用素材としては最高のものだと思っています。

もう一つのタイプは、BCと他の素材(例えば紙パルプ)を混合して使うタイプで、コスト的にはかなり安くできますが、これと100%のタイプは全く別物で、正に似て非なるものです。

ソニー時代に某スピーカーメーカーが製作したBCを混ぜたパルプコーンのフルレンジサンプルを聞いたことがありますが、単にコーンの剛性が上がったユニットで、非常にピーキーな音で個人的には全く魅力を感じなかったというのが正直なところです。

剛性だけを上げるなら、もっと他にも素晴らしい素材はありますが、100%成形で実現できるあの超軽量振動板は他の素材では現状でも無理だと思います。ただし、念のために言っておきますが、100%BCをスピーカー振動板で使った場合は決して高剛性でもなく、周波数特性も大したことはありません。その素晴らしさは特性などという表面的なことではなく、その超軽量振動板からのみ出せる独特の空気感というか音の軽さです。これはT11にも共通して言えることですが。

ちなみにネットで検索してみると今でも少しモデルはあるようですが、その価格を見る限りおそらく100%タイプではないのではと思います。

ゴン太 2013.8.9

そうですか、熱処理焼鈍しでも音に影響効果がでてくるのですね。言われてみると思い出すことがあります。
自作のエンクロージャが作りたての時、組み立ての内部応力歪みが残っていて、しばらくヘンな音がするのは良く経験されるところですけれど、わたしはユニットでも経験したことが有ります。
鉄板プレスのユニットでエンクロージャにねじ止めする時、必要以上にトルクを掛けてしまってそれが原因で音が歪んでしまったことがあります。木ネジの締め付けですから20~30分もすれば解消してしまうのですけれども、付けたり外したりするたびに感じましたので、弱いフレームのユニットは締めすぎないのがコツだと学びました。御社の製品は頑丈なADCが多いですからそんな事は考慮の必要は無いと思いますが。

faston07 2013.8.9

parkさま

丁寧な回答ありがとうございます。BCの話はそれだけで単独のエントリーになる内容ですね。
100%BCの「成形に用いる特殊な製法」とは、微生物の培養プロセスと関係があるのでは、などと想像しますが、その話もチャンスがあればお聞かせください。
製品化の可能性は薄いとのことですが、御社の社名と「ゼロではない」という部分に期待することにします。
本当にありがとうございました。

parc 2013.8.9

ゴン太様

>弱いフレームのユニットは締めすぎないのがコツだと学びました。

確かに鉄板フレームだと、トルクをかけすぎるとフレームが変形することがるので要注意ですね。

ちなみにアルミフレームのようなある程度強度がかせげるタイプの場合、バッフルへの補強効果があるのではと個人的には感じています。

parc 2013.8.9

faston07様

>100%BCの「成形に用いる特殊な製法」とは、微生物の培養プロセスと関係があるのでは、などと想像しますが、その話もチャンスがあればお聞かせください。

う~ん、それはソニーの材料開発Gpの開発した手法なので、ちょっと私からお話するのはちょっと・・・・。
ただヒントだけお伝えすると、BC100%の成形前の状態は厚いゲル状(ちょうどトコロテンのような感じ)のもので、その厚いゲル状のものを何十μ(多分)という極薄に成形することになるので、普通の成形法では簡単にはいきません。この成形法の開発は、BCの開発と共に材料開発Gpの素晴らしい功績だと思います。そんなこともあり、振動板のコストが超高価になるのです。

>製品化の可能性は薄いとのことですが、御社の社名と「ゼロではない」という部分に期待することにします。

了解です。もし材料入手ができるようなら、是非トライしたいですねぇ。

faston07 2013.8.11

parcさま

BC振動板の製法ヒントありがとうございます。残念ながら、私の知識では歯が立ちません。
それで特許が出願されていれば、資料閲覧で分かる可能性もあるかもですが。

しかし連日の猛暑。身体がアニールされているようで、スピーカーの音もなんとなく違って聴こえます。パルプコーンにはとりわけ厳しい季節、parc様も皆様も、どうぞご自愛ください。

parc 2013.8.12

faston07様

>特許が出願されていれば、資料閲覧で分かる可能性もあるかもですが。

BC関連の特許は全て材料開発Gpが出していたので詳細は覚えていませんが、たしか製法関連は公開しない方がいいとの判断で特許は出していなかったように思います。

>パルプコーンにはとりわけ厳しい季節、parc様も皆様も、どうぞご自愛ください。

ありがとうございます。faston07様も熱中症などにかからないよう、ご自愛ください。

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