振動板の軽量化について(トゥイーター編)1

2008年02月02日(土)




前回、振動板の軽量化について書きましたが、今日はトゥイーターの振動板について書いてみたいと思います。

先に私の持論を言わせていただければ、トゥイーターにとって振動板の軽量化は他の全ての項目に優先すると思います。極論すれば、少々磁気回路の設計が貧弱であろうが、ボイスコイルの設計がベストでなかろうが、より軽量な振動板を使っているトゥイーターの方が音質は優れていると思います。

低域まで再生する必要があるウーファー等に比べ、トゥイーターは振幅の非常に少ない高域だけを再生すればよいので、強度の弱い振動板を使用することが可能です。その代表例がソフトドームトゥイーターで、使用されている素材は絹や軽量ポリエステル等の非常に軽量なもので、機械的な強度は非常に弱いですが、その超軽量という最大のメリットのため今でもトゥイーターの代表的な方式の一つとして愛されています。

さらに軽量振動板の例としては、非常に薄いフィルムを使ったコンデンサースピーカーや、ボイスコイルそのものを振動板とするリボントゥイーター、もっと極端な例では振動板が存在しない空気そのものを振動させてしまうという放電型スピーカーというようなものまであります。これらを説明するのはちょっとブログでは限界があるので割愛しますが、いずれにしてもトゥイーターにとってその命は振動板の軽量化という事は間違いないと思います。

さて話を一般的なトゥイーターに戻すと、クラフトスピーカーの世界で一番ポピュラーなタイプはやはりドームタイプ(振動板の形状がドーム形状になったもの)でしょう。ドームタイプは、大きく分けるとソフトドームとハードドームの2つになります。

ソフトドームは、前述したように絹や軽量ポリエステル等の振動板を使用しており、その素材が柔らかいことからこの名前が付いたようです。最大の特徴はとにかく振動板が軽量だということで、重量で比べれば最新の結晶ダイヤモンドやマグネシウム等も全く敵いません。さすがに素材強度は弱いため、高域の再生限界周波数はそんなに高くありませんが、でもその軽量振動板が奏でる軽やかで聴きやすい音には多くのファンがいます。振動板素材も軽量なものがいろいろと開発されていますが、さすがに限界に来ているようで、メーカー間で極端な差は無くなりつつあります。

ハードドームは、その名のとおり硬い振動板つまり金属の振動板を使用したもので、最大の特徴はその振動板強度から得られる優れた高域再生能力です。ただ金属振動板は強度が強い反面、内部損失が少ないため、ソフトドームに比べて高域でピークが発生しやすいため、モデルによってはピーキーな音質になることもあります。この内部損失とは、発生した振動を吸収しやすいかどうかを示すものと考えていただければOKです。つまり内部損失が少ないと、一度共振が発生した場合なかなか振動が収まらず、周波数特性に大きなピークが発生します。この高域共振を抑えるために、ドーム形状を変形したものにしたり、スリットを加えたりと各社いろいろな工夫をしていますが、これについてはまた後日機会があればお話したいと思います。

ここでハードドームの金属振動板について簡単に述べておくと、使われている素材としては、アルミ、チタン、マグネシウム、ベリリウム、結晶ダイヤモンドと本当にいろいろなものが採用されています。それぞれ特徴がありますが、肝心の軽量化という観点で見ればベリリウムがチャンピオンとなります。ただベリリウムは毒性の問題と、材料コストが非常に高いため、一般的なモデルでの採用は厳しいため、現実的な選択としてはやはりアルミが最有力候補となります。

ここでアルミと聞いて、チタンやマグネシウムの方が素材としては上ではないのか、と思われている方もいるかも知れませんね。でもあえてここで断言させていただきます。トゥイーター用素材として見た場合、チタンやマグネシウムよりも現時点ではアルミの方が優れています。

先ずチタンですが、確かに材料費はアルミより高く高価な材料です。また強度もアルミよりも上です。ただチタンの最大の弱点はその比重の高さです。アルミの比重2.7に比べ、チタンの比重は4.5と大幅に重く、振動板の物性を評価する際に用いられる音速(材料のヤング率/比重のルート)を見ると、むしろアルミより低いのです。ちょっと難しい話に見えますが、簡単に言ってしまえば振動板は軽くて強いものが良いということで、いくら強くても重い材料は良くないということです。また現実的な話として、ある重量の振動板を製造する場合、比重が重い材料はより薄くしないといけないため、製造できる限界があるということがあります。つまり、アルミより軽い振動板をチタンで作るのは現実的に難しいのです。

次にマグネシウムですが、これは最近脚光を浴びておりマグネシウム=最高の素材と思われている方も多いのではないでしょうか。実際素材の物性で言えば、アルミより軽く(比重は3分の2)、強度も強くおまけに内部損失も大きいので本当に素晴らしい特性です。ただマグネシウムにも大きな弱点があります。それは非常に酸化しやすい(つまり錆びやすい)事で、そのためマグネシウムは一般にその両面には錆止めのコーティングを付ける必要があります。また現状では、アルミに比べまだ薄く加工することに限界があり、トータルではアルミには一歩譲ることになります。
具体的にΦ25ドームの例で言えば、現状のマグネシウムの一番薄いものでも板厚は50ミクロンもあり、その表面に6ミクロンくらいのコーティングが両面に塗布されていますので、アルミに換算すると38ミクロン相当の重量となり、まだまだその差は大きいのです。PARC AudioのDCU-T112Aで採用しているアルミは20ミクロンですから、いかに軽量化しているかがお分かりになるかと思います。ちなみに皆さんがご家庭でよく使われているアルミホイールは15ミクロンの厚さです。あのふにゃふにゃなアルミと殆ど変わらない板厚を振動板にしていると考えていただければ、いかに薄い(軽量)かがお分かりになるかと思います。


さてちょっと長くなってしまったので、今日は取りあえずこの辺にして残りは次回に書きたいと思います。

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