プロジェクトF情報(パルプについて)

2011年06月27日(月)

こんばんは。今日は前回に続いてパルプの話をしたいと思います。

 

SPが音質的に優れていることは既にお話しましたが、実はそのSPも良質のものは非常に入手が難しく、私が新人の頃に比べると状況は絶望的とも言える状態です。今回プロジェクトF用に使うSPも、2年前にもうこれで最後という話を聞いて、まだ使うモデルも何も決まっていないのにあわてて購入しておいたもので、既に現在は入手はできなくなっています。もちろん昔一世を風靡したSPの定番パルプである7DF(JBLなどでよく使われていました)などと比べれば正直レベルは落ちますが、少なくとも現在入手できるパルプでは最高レベルのものだと思います。

 

SPが激減している理由には、その製造工程中の廃液などが公害問題を起こすとか、KPに比べて圧倒的に需要が少ないとかいう話を聞いたことがありますが、詳しいことは私も分かりません。ただいずれにしても良質のSPが随分前からなくなっていることは事実で、市場で見かける所謂ビンテージの復刻モデルの中で少なくともコーン紙を使っているモデルに関しては、同等レベルのユニットを再現するのは先ず無理だと思います。ちなみにプロジェクトFでは、昔のモデルに比べてパルプで負ける分は、SID方式やアルニコマグネットなどの他の技術を使ってトータルで差別化が出来るようにしています。

 

SPについては昔ちょっと驚く話がありました。ソニーで業務用モデルの開発をやっている時に、私の部下だったあるエンジニアとコーン紙について協議をしていると、どうも話がかみ合わない。実は彼は某大手スピーカーメーカーで振動板素材の開発業務を担当していた経験を持つエンジニアなのですが、よくよく話を聞いてみるとそのスピーカーメーカー(皆さんもよ~く知っているメーカーです)ではSPは全く使っていないとのこと! 私はその話を聞いて、当時本当に驚いたもんです。スピーカーをやっていてSPを使ったことがないとは・・・。まぁこれではなかなかいいものが出来ないのも仕方がないかも知れません。

 

またSS-A5を開発していた時には、当初開発をずっとやっていた国内でも最大のコーン紙メーカーと、開発後期から新規参入してきたもう1社のコーン紙をブラインドテストで比較テストを行い採用を決めるということになったのですが、その時も良質のSPを使っていたもう1社が圧倒的によく、1発でそちらに決定したということがありました。この時は半年以上いろいろ試作をお願いしていたメーカーに結果的に注文が出せず、営業担当者に正直に事情を説明したのですが、その担当者が言った言葉には驚きました。

 

「冨宅さんが今言った音のコメント(もちろんネガティブな内容です)と同じことを他のお客様からも言われました。うちはSPで特徴を出していたメーカーですから、そのパルプが無くなったら勝ち目は無いですねぇ。」と。

 

良いコーン紙を作るにはもちろんいろんな製造上のノウハウがあります。ただ、やはり基本のパルプが悪ければ、いくら製法がよくてもやはり限界があるようですね。今回プロジェクトFのコーン紙もそのもう1社のメーカーさんにお願いしています。そう言えば、昔国内のビクターやパイオニアのエンジニアがSPで有名なUSAのホーレー社(ここが国内メーカーの先生のような存在でした)にいろいろと視察に行ったのですが、その時彼らは自信ありげにこう言ったそうです。

 

「どうぞ、工場の中で見たいところは自由に見てください。ただし、パルプ置き場だけは例外ですよ。」と。

この記事へのコメント

GX333+25 2011.7.5

PARC 様

 エヴォリューションとかイノヴェーションとか、かけ声が盛んな割に、このところの話題は「ロスト・テクノロジー」と化していったお話しが多くて、少しブルーな気分になります。

 人とともにロストしていったり、社会情勢が許さなくなったり(もちろん、公害はいやですけどね)と事情はそれぞれでも、なかなか「良いものは必ず残る」と断言できないのがなんだか悔しく思えます。

 そういえば、紙には「和紙」というのがあって、日本銀行券を世界最高たらしめている源泉ともいわれていますが、スピーカー・コーン紙としては、やっぱりダメダメなんでしょうか。ちょっと不思議に思ったので一言だけ。

parc 2011.7.5

GX333+25様

>事情はそれぞれでも、なかなか「良いものは必ず残る」と断言できないのがなんだか悔しく思えます。

確かに他の分野でも、色々な理由で本当に良いものが入手できなくなってきていることは増えているように感じます。

>紙には「和紙」というのがあって、日本銀行券を世界最高たらしめている源泉ともいわれていますが、スピーカー・コーン紙としては、やっぱりダメダメなんでしょうか。

和紙の原材料である楮(こうぞ)や三椏(みつまた)などは昔からコーン紙に使われていますが、主原料としてではなく、少量を入れて使う一種の添加剤的な使い方が主だったように思います。

コメントを投稿

※【ご注意ください】コメント欄に不具合が生じる恐れがある為、
メールアドレスにguest@example.comを入力しないようにしてください。
※お名前は必ずご記入をお願い致します。ニックネームでも構いません。
※メールアドレスは必須ではありません。また、ご入力いただいても公開はされません。

*


  |