プロジェクトF情報(表層駆動)

2011年07月19日(火)

こんばんは。今日は表層駆動ということについて話をします。

 

スピーカーの表層駆動の重要性についてはあまり記載されているのを見かけませんが、私もソニーに入社するまでは知りませんでした。

では表層駆動とは何かと言うと、言葉のとおり振動板の表層(一番表に出ている面)を直接駆動するということです。その基本的な考え方は、「人はスピーカーユニットの振動部(つまり振動板)の一番表層の音を聴いているはずだから、そこを出来るだけ直接駆動する方が良い」というものです。私がソニーに入社した当時、ソニーは例の四角い平板スピーカー(APM)の商品化に集中していましたので、厚みのあるハニカム振動板を使っていたソニーとしてはこれは非常に重要と考えていたわけです。

 

もちろん表層駆動と言っても、厚いハニカム振動板の裏側にボイスコイルは接着されているので、直接表面側を駆動することは構造的に困難です。そのため当時のAPMスピーカーではこの表層駆動に近づけるため、ボイスコイルの先端に画鋲のような形状をしたアルミ製のピンを接着して、そのピンをハニカム振動板を貫通させて直接表面側のスキン材に接着するというものです。

 

入社当時、そのことを聞いた私の正直な感想は、「そんなとこ、あんまり効かないだろ~! 」。 で当然やりましたブラインドテストを。表層駆動したものと、そうでないものをとっかえひっかえ聴きましたが、驚いたことにこれが想像以上の差があるんですねぇ! ほんとスピーカーって怖いです。その音の変化は、ちょうどベールが1枚取れた感じと言えばお分かりいただけるでしょうか。この表層駆動を聴くと、今までの方式は音像があまく解像度が落ちる感じです。

 

ここでちょっとコーン型ユニットの図を見てください。駆動源であるボイスコイルのボビン部はコーン紙の表層に直接接着剤で接合されています。つまり、コーン型という古典的な方式は理論的に非常に理にかなっていたわけです。このコーン型の変形として、コーンとセンターキャップが一体になった振動板を使ったユニットがあります。某海外製の高級ユニットでも採用していますね。ただこの方式の場合、普通に組立てるとボイスコイルは振動板の裏側に接着されるので、表層駆動にはなりません。もちろんCAP一体型の場合、振動板そのものが一体構造で剛性が高くなるという利点もあるのですが、私がやるなら絶対振動板の一部に切り欠きを入れてボイスコイルボビン先端の一部をコーンの表側に貫通して接着するでしょうね。

 

 

 

ではトゥィターで一般的に使われるドーム型はどうかと言うと、一般的にはものは下図のようにボイスコイルはドーム振動板の裏側に接着されているので、残念ながら表層駆動にはなっていません。解像度などに対する音の影響を考えるとトゥィターの方が本来は表層駆動を積極的にやるべきだと思いますが、大半のドームトゥィターはそのようにはなっておらず、問題を抱えているのです。

 

 

 

 

今回プロジェクトFのドームトゥィターは、ボイスコイルとドーム振動板が一体となったタイプを採用しており、下図のように完全に表層駆動ができるようになっています。この方式はたしかダイヤトーンが最初に商品化したと記憶していますが、その後ソニーを初め各社が商品化をしています。技術としては最新というわけではありませんが、先に説明したように理にかなった方式であることに間違いはありません。ただ構造上金属振動板に限られるため、材質もチタンやアルミ、マグネシウムくらいしか量産モデルはなかったと思います。現在開発中のユニットも正直なことを言うと、音は抜群ながら、肝心の製造面ではまだまだ苦戦しており、現在製造メーカー様の方でもいろいろと調整中の状況です。やっぱり20μは作るのが大変ですねぇ。(^^;

 

 

 

 

開発中のユニット写真を本邦初公開しますが、アルミ20μでボイスコイル一体というのは多分量産では初めてではないかと思います。さぁ発売に向けてガンバ!

 

この記事へのコメント

keik 2011.7.20

マグネシウムでボイスコイル一体型ドームと言えば、ビクターが3年くらい前にやってました。材質とか厚さとか分からないですけど。

http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080515/victor08.jpg

コーティング厚は結構ありそうですね。

表層駆動の話を最初に聞いたときは「直感的には理解できるけど、それって本当に本当?」という感想を持ちました(^^;)
うちは廃盤になったアルミTWもあるので、聞き比べが楽しみです。(あのアルミも相当いいですけどね)

GX333+25 2011.7.20

PARC 様

 おーっ、ついにプロジェクトFのトゥイーターがベールを脱ぎましたね。中身の方はさっぱりわかりかねますが、ルックスが実に良いですね。「これならいい音が出るぞ~」オーラが出ているようです。

 いつもこればっかりですが、「かっこいいキカイは性能も良い、不細工なキカイは性能も悪い。だから、ルックスの良いキカイを作れ」というのが、私の先生の口癖でした。それにスピーカーは人前に現れる率が高いですから、ルックスの悪いスピーカーが置いてあると、いくら能書きを説かれても居心地が悪くて良い印象を持つべくもありませんからね。

 明日(あ、もう今日か)あたりは、台風で大騒ぎの反面、酷暑も一段落というところのようですが、くれぐれもお身体に気をつけ、耳をいたわりつつがんばってください。こちらは、なんとか真空管オーディオフェにはせ参じることができるよう、悪知恵を絞ってみますので。

parc 2011.7.20

keik様

>マグネシウムでボイスコイル一体型ドームと言えば、ビクターが3年くらい前にやってました。

いやぁ、失礼しました。ビクターもやりますねぇ。ただマグネでVC一体となるとかなりの厚物でしょうね。コーティングを入れれば100μオーバーってとこでしょうか。でも将来マグネの超薄物が出来るようになれば、多分それが究極のゴールになるかも知れませんね。

>表層駆動の話を最初に聞いたときは「直感的には理解できるけど、それって本当に本当?」という感想を持ちました(^^;)

それは私も同感です。(笑)

>うちは廃盤になったアルミTWもあるので、聞き比べが楽しみです。

それは止めた方がいいかも・・・。私もちょっとだけやりましたが、全く別物です。まぁ価格を考えれば当然ですが、私もここまで差が出るとは予想外でした。プロジェクトFは、普通の人が聴いたらTWの方が一般モデルとの差が分かりやすいかも知れません。見た目は地味ですけどねぇ・・・。

parc 2011.7.20

GX333+25様

>「かっこいいキカイは性能も良い、不細工なキカイは性能も悪い。だから、ルックスの良いキカイを作れ」というのが、私の先生の口癖でした。

スピーカーはオーディオ機器の中では最も外観の形状が性能(特性や音)に直結する機器ですからねぇ。このTWも見た目は非常に地味ですが、フレームの細かい寸法はかなりこだわって設定していたりします。

GX333+25 2011.7.20

PARC 様

 再々顔を出してすみません。振動板とボイスコイル一体型ということで、どこかで見たような、と思っていたら、ありましたありました。

 あのスピーカーの雄・ダイヤトーンのD.U.D.(DIATONE Unified Diaphram)がそれでしたね。しかも、振動板に炭化ボロンを使うというおそろしく手間暇カネのかかるトゥイーターも同じ方式じゃなかったでしょうか?

 なんでも、非常に薄く軽く作られている上に、非常に脆い物質のため、このスピーカーの輸送だけはおことわり、という業者もいた、と聞いています。すでにこれは非金属素材ですよね。

keik 2011.7.20

>全く別物です。私もここまで差が出るとは予想外でした。

いよいよ楽しみになってきました。音は本当に順調なようですね。製造は大変なようですが。

来週辺り、このドームにボイスコイルを巻くのがいかに大変か、延々と書いてみてはどうでしょうか(笑)

parc 2011.7.20

GX333+25様

>振動板に炭化ボロンを使うというおそろしく手間暇カネのかかるトゥイーターも同じ方式じゃなかったでしょうか?すでにこれは非金属素材ですよね。

そうでした。DUDの本家はボロンでしたね。すっかり忘れてました。(^^;
あれはソニー時代、比較検討でよく聴いていたので懐かしいです。PARCが狙っている方向とは違いますが、正攻法のHiFiサウンドとして素晴らしいTWだったと思います。
ただあれも製法としては、先にチタンを成形し、それをあとでボロン化するという方法だったと記憶しています。同じようなやり方で、ソニーはチタンを成形した後で窒化処理をしてTiNにする手法をやってました。

parc 2011.7.20

keik様

>音は本当に順調なようですね。製造は大変なようですが。

TWはあとはいかに安定して作るかですね。ドームの成形そのものは問題なく出来ているのですが、問題は巻き線で、今回かなり細い純アルミのリボン線を使っているので、巻き線屋さんはほんと苦労してます。

むしろ音では、TWがかなりの出来なので、WFのレベルをもっと上げないと負けちゃうかなぁという感じかも知れません。

>来週辺り、このドームにボイスコイルを巻くのがいかに大変か、延々と書いてみてはどうでしょうか(笑)

たしかに興味深いテーマかも知れません。ただ実際に苦労して巻いてくれているのは巻き線屋さんのほうなので、私があまり偉そうなことも書けないですね。(^^; NG品の写真でも掲載しますかねぇ・・・。(笑)

Y.Y 2011.7.26

プロジェクトFのユニットだけ、フレームに代表の落款印を入れるなんてできないでしょうか?
フレームへのプリントが難しいようならステッカーを添付など別の手段で。
特別な作品(ユニット)なので、それぐらいの価値があるようにおもいます。

parc 2011.7.26

Y.Y 様

>プロジェクトFのユニットだけ、フレームに代表の落款印を入れるなんてできないでしょうか?

落款印を入れるのはちょっと難しいと思いますが、かわりに初期ロットの私が手作りしたものには、へたくそではありますが私のサインを直接書こうかとも考えています。まぁこの手作り体制がいつまで続けられるかは今のところは全く分かりませんが、いずれにしても大事に販売していきたいと思っています。

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