ボイスコイルについて

2008年02月07日(木)



今日は、スピーカーユニットの中で振動板と並び非常に重要なパーツであるボイスコイルについて書きたいと思います。ちょっと内容が多いため、2回に分けて進めていきたいと思います。初回は、構造編です。


ボイスコイルとは、その名前の中にボイス(英語で声の意味)という単語が入っている事が示すように、まさにスピーカーユニットの中でこのパーツが音の発生源となります。ここで発生した振動がコーン紙等の振動板に伝わり、それが音波となって我々の耳に音を伝えてくれるのです。よくスピーカーユニットのことを車ではエンジンにあたると言いますが、そのスピーカーユニットの中でこのボイスコイルはまさにエンジンそのものです。

ボイスコイルの構造は比較的簡単で、ボビンと呼ばれる芯材の周りに銅線等の線材を巻いて、その線材の引き出し部を固定するための絶縁シート(一般には紙が多い)が上から巻かれています。

線材の材料としては、下記の3種類があります。

1)銅線
 一番一般的なもので、フルレンジからウーファーまで多くのモデルで使われています。特徴は、導電率が高いので効率が良く、剛性もアルミ線に比べて高いので音質的にも一番安定しています。欠点はアルミ線より重い事で、トゥイーターにはあまりむいていません。

2)アルミ線
 主にトゥイーター用として使われている線材で、最大の特徴はその軽さです。先日のエントリーで述べたようにトゥイーターでの振動系の軽量化は非常に重要であり、アルミ線は非常に有効です。
ただ欠点として、コストが非常に高いこと、機械的強度が弱いため線材が非常に折れやすく部品の歩留まりが悪いこと、半田付けが非常にやりにくい等の問題があり、低価格のモデルはなかなか使用ができません。また、銅線よりも導電率が低いので、効率も悪くなります。
ちょっと特例としては、ボーズが非常に特殊な強度の強いアルミ合金の線材をフルレンジモデルで使った例もありました。これは、アルミ線の割りに非常に剛性があり、音質的にも優れたものでした。

3)CCA線
 これはアルミ線の周りに銅線を被覆加工した線材で、銅(Cu)クラッド(clad)アルミ線(Al)の略です。アルミ線の軽さと、銅線の導電率の高さ、ハンダ加工の容易さのいいとこ取りを狙った線材ですが、悪く言えば中途半端という感じもあり、高級モデルでの採用は比較的少ない感じです。
主に中級以下のトゥイーターやフルレンジスピーカーに使われることが多いです。


次に線材の形状ですが、下記の4種類があります。

1)丸線
 名前の通り、通常の断面が丸い線材で、一番一般的なものです。これでボイスコイルを巻くと、いわゆるタワラ巻きという俵を段々に積み上げた形になり、丸と丸の隙間が出るため、線積率(ある面積の中でどの程度線材が詰まっているか)が悪く、性能はそれなりとなります。

2)リボン線(つぶし線)
 これは丸線をつぶして断面を長方形にした線材で、丸線よりも線積率が向上し、非常に扁平な巻き線も出来るため、高級モデルを中心に使われています。欠点としては、丸線をつぶしてできるのでどうしても完全な長方形にはならず、角部が若干R形状となることです。

3)スリット線
 これは薄いシート状の材料をスリットして作られた線材で、その断面形状は完全な長方形となります。そのため、線積率は非常に優秀で、音質的にも非常に良好となります。このタイプは、国内製しか見たことがありません。
ただ非常に高価な材料なため、一部の高級モデルしか使われることがないようです。私の記憶では、このタイプはパイオニアが最初に開発したと思います。ソニーでもSUP-T11やその他一部のモデルで採用しました。

4)真四角線
 これは(2)の1種と言えますが、つぶし線としてはその断面形状がほぼ真四角でコーナーRが非常に少ないことが特徴です。そのため線積率も非常に優秀で、スリット線の代替策として近年採用モデルが増えています。
このタイプも、国内製しかありません。

 

巻き線の方式としては、下記の3種類があります。

1)2層巻き
 最も一般的なもので、安価で多くのモデルに採用されています。

2)1層巻き
 リボン線やスリット線で採用されることが多い巻き方で、その名の通り1層だけ巻いたもの(奇数巻き)なので、巻き終わりの線はボイスコイルの下側に出てくるので、それを折り返してボビンの裏側から上に戻す必要があります。そのため、非常に高価で、巻き線にも高度な技術が要求されます。

蛇足ですが、以前日本の某メーカーは音質的に1層巻きが一番良いと信じて丸線を無理やり1層巻きしていたこともあるようです。
私も個人的には、この1層巻き(リボン線かスリット線)が一番音質が良いと感じています。PARC AudioのDCU-F131WDCU-171Wではこのリボン線の1層巻きを採用しています。

3)4層巻き
 これは線材を沢山巻きたい場合に有効な方法で、サブウーファー等のモデルに主に使われています。最近ではリボン線を使った4層巻きというようなものまででています。


ボビン材の材料としては、代表的なものとして下記のものがあります。

1)
 以前はこれが中心でしたが、耐パワーが弱いということで最近はあまり使われていないようです。前回のエントリーでも書いたように、スピーカーは音の出る電気コンロですから、とにかくパワーを入れると温度が非常に高くなります。そのスピーカーユニットの中で一番温度が上がるのがボイスコイルなのです。普通のモデルでもそのボイスコイル線材の温度は簡単に100℃を超え、最大許容入力が入ると200℃を超えることも珍しくはありません。
紙は130℃くらいで炭化(つまり焼け焦げて炭になること)が始まるので、高耐入力のモデルには紙はあまり適しません。ただし、その音質の良さには定評があり、耐パワーの低くてよいモデルには是非検討したい材料です。昔のスピーカーで音の良いモデルでは、紙ボビンを使っていたものが多くありました。

その後の情報で、クラフト用のユニットでは今でもクラフトボビンが多く使われているとの事が分かりましたので、表記を修正いたします。(2008.4.14)

2)アルミ
 紙と全く正反対で、耐熱温度が高く、放熱効果も高いので、高耐入力モデルによく使われます。剛性が高いので、トゥイーターで使われることは非常に多いです。
ただ最大の欠点として、アルミは導電材なので、スピーカーの動作時にうず電流と言われるものがボビン材に流れ、これがスピーカーユニットの動きに制動をかける働きをします。そのため一般的にアルミのような導電材のボビンを使ったモデルは、低域が過制動になりやすく、低域がでにくい傾向があり、ウーファーに使用するには注意を要します。
またアルミ自信が材料的に内部損失が低く、紙等の材料に比べると材料のQが高いので音質的にも固めの音になります。トゥイーターにはそれがプラスになることもあります。
個人的にはトゥイーター以外のボビン材としては私が最も嫌いな材料ですが、ボビン部に細かいスリットを入れてうず電流を流さないようにした特殊なボイスコイルを使ったソニーのSUP-L11のようなモデルを設計した事もありました。

3)ポリイミドフィルム
 カプトンと言った方が一般的かも知れませんが、非常に耐熱温度の高いフィルムで、ウーファーからトゥイーターまで広く使われています。海外製ではJBLがよくこの材料を使っていますね。私もこの材料は好きで、今回のPARC Audioのウッドコーンは全てこれを使っています。
音質的には非常にクセが少なく、設計としては使いやすい材料ですが、ボイスコイルの製造という面では接着性に少し難があり、ボイスコイルメーカーで使っていないところもあるようです。

4)ガラスイミドフィルム
 設計では略してガライミとよく言っていましたが、製品名でTIL(ティル)とも呼ばれています。名前のように、ガラス繊維をポリイミド樹脂で固めたもので、耐熱温度も非常に高く、ウーファーを中心に良く使われています。重量がそこそこあるのでトゥイーターに使われることは見たことがありません。
音質的には、ガラス繊維のある分剛性が高いのでよく言えばしっかりした音になりますが、反面少しガラス固有のクセのある音にもなります。

5)ノーメックス
 デュポン社が開発したアラミドポリマーから作られた高耐熱の絶縁紙で、音質的には紙に一番近く、耐熱も高いので、個人的には一番好きな材料でした。ただ最大の欠点は急激に温度が上がると、材料が水ぶくれ状に膨れることがある事で、これが起きるとスピーカーとしてはボイスコイルがポールピースに接触して異音が発生するのでNGとなります。最近はあまり使われていないような気がします。

6)その他
 これ以外では、真鋳やチタン等の金属を使用した例がありましたが、あまり一般的ではないようです。

この記事へのコメント

exclusive hi-fi 2013.7.25

始めまして、私、大阪で主にベースミュージック系の業務用サウンドシステムを個人で製作している者です。
ボイスコイルの構造についていろいろ調べてましたら、このブログに辿り着きまして。。。
SONYの開発してはったんですね!
凄い!
それで質問なんですが、先日 過入力でぶっ飛んだスピーカーユニット(無名の中国製18inc sub 6inc VC rms1000w)の修理依頼がきてバラしたところ、VCの巻き方がボビンの外側一層の内側一層なんです。
今まで外側二層とかしか見たことがありません。どういう意図でこうしたのか私にはわかりません。。なんか考えられる事ってありますかね?

それと、この手のウーハーでギャップのクリアランス特にVCから外側を広めに取るとどういった弊害が出ると思われますか?
(過入力で熱がもった時、ボビン等が少し熱変形したとしてもコイルが外側のプレートにカジリ付きにくする為として)

いきなり質問攻めですみません…
よろしくお願いします。

ps.古いブログにも投稿してしまいました。。

parc 2013.7.26

exclusive hi-fi様

>今まで外側二層とかしか見たことがありません。どういう意図でこうしたのか私にはわかりません。。なんか考えられる事ってありますかね?

そのタイプは、おそらく下記の点を目的に設計されたVCだと思います。

1)VCの線材はパワーが入ると温度が上昇し、その結果線材は膨張して外に膨らむため、一般的なVC構造の場合、線材がボビン材から剥れる方向になりますが、ボビン内部にも巻線を配置することによりボビン自体を両側の巻線で挟みこんで熱膨張した場合も剥れにくくするという目的。

2)大パワー入力時に線材の放熱を少しでも下げるため、2層のそれぞれの線材が磁気回路の金属パーツに接するように配置することにより、一般的なVCよりも放熱効果が期待できる。

>この手のウーハーでギャップのクリアランス特にVCから外側を広めに取るとどういった弊害が出ると思われますか?

磁気ギャップを大きくすることによる弊害は、磁束が下がることによる制動不足(ダンピング不足)とSPLの低下がありますが、PA用などの大パワーユニットでは先ず壊れないということが最優先なので、どうしても外GAPは大きめに設計する必要があります。

そのため、それを少しでも軽減するために一般的なWダンパー構造なども採用されています。

またJBLやソニーのフェライトモデルでは磁気回路内に特殊なエアーフローを設けて、放熱効果を上げるような努力もやっていますね。

exclusive hi-fi 2013.7.26

ありがとうございます。
かなり参考になりました!

最近は日本も一部のマニアックなレベルですが、ヨーロッパ圏を見習いDub stepやdrum n bassなどのスーパーLow(45㎐以下)が大音量で出せるホーンテッドスピーカーがだいぶ見直されてきており、需要も徐々に増えてきております。
Low以外の腰上もオールホーンシステムの高能率長距離伝達かつhi-fiなものが好まれるようになってます。
それに伴い、よりハイパワーでタフなユニットが求められています。

parc 2013.7.26

exclusive hi-fi様

>Low以外の腰上もオールホーンシステムの高能率長距離伝達かつhi-fiなものが好まれるようになってます。

そうでしたか。ただ正直なところ、私は大のホーン嫌いなので、ちょっと残念です。ソニーでプロ用ドライバーを開発した時も、開発目標はホーンらしくないホーンドライバーの開発でした。(笑)
まぁ、ハイパワーの要求が大きいのであればホーン系しかないですがねぇ・・・。

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