スピーカーのエージングについて

2008年01月26日(土)

WEBを見ているとユーザーの皆様がスピーカーのエージングについていろいろと悩まれているのを拝見することがあり、意外に関心が高いのではと思いました。
そこで今日は、スピーカーのエージングについて自分自身の経験談を簡単に書いてみようと思います。

先ず初めにエージングの意味ですが、エージングとは車で例えれば慣らし運転のことで、英語ではagingとなります。

これを辞書で引いて見ると、

 
1)年(age)をとること
 2)老化(現象)、経年劣化
 3)熟成{じゅくせい}


とかなり広範囲な意味があることに驚きます。私も50を過ぎ、ずいぶんとエージングが進みました。


さて本題に戻りますが、スピーカーの場合は一般的には3)の熟成を意味しており、具体的にはいろいろな音源を鳴らしてスピーカーの音がなじむようにしていくという良い意味に使います。

一般にスピーカーと言えばスピーカーシステム、つまりスピーカーユニットとキャビネット、吸音材、ネットワーク等を含めた完成品を示しますが、この中でも最もエージング効果(逆の言い方をすれば経年変化)が出やすいのがスピーカーユニットです。

そのスピーカーユニットの各部品の中で最も影響を受けるのは、やはりサスペンションとして機能しているエッジ(海外ではサラウンドと言います)と、ダンパー(これは海外ではスパイダーと言います)になります。この2つの部品が、スピーカーユニットの基本特性の1つであるF0に大きく影響します。

エージングによるF0の変化はリニアではなく、使用しているダンパーの材質等にもよりますが、初期段階で比較的早く変化し、その後安定しながら最終的にあるところで落ち着くという感じになります。

ちなみに耐久性という観点で、スピーカーユニットは各種耐入力試験を行い、一定の試験後(一般には100時間が多い)にF0等がどの程度変化しているかを確認し、各社量産を行っています。
(スピーカーユニットの各パーツについての解説は、今後また別途書いていこうかと考えていますので、もう少しお待ちください。)


F0以外で変化が見られるのは、周波数特性です。これは一概にこう変化するというのは言いにくいのですが、一般的に言えば中高域のピーク周波数が少し下がったり、ピークの量が減ることが多いようです。

余談ですが、昔まだ私が新人のころ、量産したスピーカーユニットのF0の値が規格内に入らず、エンジニアが製造ラインに集まって量産ユニットのダンパーを手で揉みしごいて強制的に柔らかくしてF0の値を下げたなんていう笑えない話もありました。今では本当になつかしい話です。ただし、この方法はF0を下げる時しか使えないのが難でしたが・・・・。

もちろんエージング後には、最大の目的である音質も変化します。一般には中高域が滑らかになったり、低域の動きがよりスムーズになったり、良いことが多いですが、過度のエージングは俗に言うダンパー等のヘタレが発生し、低域が腰砕けになったりすることもあるので、ご注意ください。


さていよいよ本題のエージングの方法ですが、もちろん基本は音楽信号を入れてスピーカーを鳴らすということです。「そんなことは誰でも知ってるよ。」と言われそうですが、ここで重要なのがソースをどうするかということです。F0等の物性に現れるようなはっきりとした変化を求めるならスピーカーのF0近辺の正弦波やノイズ等を入れれば一番効率がよいのですが、経験的なことを言えばこの方法は音質の熟成という意味ではあまり良いとは思えません。

エージングと音質の定量的な関係を述べるのは非常に困難ですが、経験的には自分のよく聴く音源を中心にじっくりと時間をかけてやるというのが、やはり最も適していると感じています。ソニー時代に、プロ用のスピーカーユニットを出荷前に全てエージングしていたことがありましたが、この時は自分でエージング用のCDを作成し、それをCDで連続再生して使用していました。一度時間の関係で、ピンクノイズでやったこともありましたが、やはり少し良くなかった記憶があり、その後は出来る限り通常の音源を使うようにしています。

ただしボーカルものしか聴かないというような方は、音源に低域成分が少ないので、出来ればそれとは別に少し低域成分が多い音源も使用されれば効果的かと思います。

音量はご自身が通常聴かれる標準音量より少し大きめにされた方が時間的にも有利ですが、ここで一番問題になるのがスピーカーの使用環境ですね。完全防音仕様の視聴室をお持ちの方はそう多くないと思います。エージングで音を出したいけど近所迷惑なのでとか、家族のクレームがとか、いろいろあるのではないでしょうか?

そこで非常に有効で単純な方法をご紹介したいと思います。
それは、ノイズキャンセリングの手法を使います。ちょっと難しく聞こえるかも知れませんが方法は実に簡単で、2つのスピーカーを互いに向かい合わせ、どちらかの入力を逆相接続にするのです。つまり、お互いのスピーカーが逆相で動作することにより、お互いの音を打ち消しあうことになり、音量は劇的に減少します。これはなかなか遮音が難しい低域成分に特に有効で、高域成分は少し残りますが遮音法としては非常に実用的です。

ここでのポイントは、下記の4点です。

1)必ず同じスピーカー(2個)で行うこと
  違うスピーカーだと、完全にキャンセルされず、効果は非常に少なくなります。

2)スピーカーユニット単体ではなくBOXに入れた状態で行う
  スピーカーユニット単体だと、どうしてもユニット背面からの回り込みで
  キャンセル効果が落ちます。

3)入力信号は、同じものにすること
  ステレオの左右チャンネルで行う場合は、必ずモノに設定してください。
  ステレオのままだと、当然信号が左右で違うため、キャンセル効果は減ります。   
  モノ設定が出来ないアンプをご使用の場合は、どちらか一方のチャンネルから
  2つのスピーカーに繋ぎます。  
  この時、パラ(並列)接続だとインピーダンスが低くなりすぎてアンプの負担が
  増えますので、アンプに余裕が無い場合はシリアル(直列)接続にしてください。 
  もちろん、どちらの場合も必ずどちらか一方の接続は逆相(+-を逆に)に
  します。

4)スピーカーの距離は、出来るだけ近くすること
  ただし、スピーカーのエッジが振幅した時にお互いにぶつからないように最低限
  の距離は確保してください。  
  一般的に言えば、20mmも離せば十分かと思います。


最後に気をつけないといけないのが、短時間で済ませるために過度の入力を入れ過ぎて、熟成ではなく経年劣化にならないように心掛ける必要があるということです。

特に上記の方法で行う時は、通常の入力よりかなり小さく聞こえますので、音量設定の時は必ずスピーカーの位置をずらせて、本来の音量を確認するようにしてください。 この方法を取れば、夜でもそこそこの音量まで上げることができますので、是非お試しください。

この記事へのコメント

ウッドコーン 2008.1.27

エージングって
エージングって良く言われますが、最初は、
分かりませんでした。
買ってきたスピーカーは、綺麗?に鳴っているし。
でも初めてスーパースワンの音だしをしたときの
驚きというかがっかりを覚えています。
ガサガサ、ボーボー、ってなんじゃこりゃって
感じでした。
それが、直ってくるとやっぱり高音が、物足りない。
我慢し続けて一番安いFEを付けたら
綺麗な高音が、出る事、出る事・・・
で今度PARCさんのウッドコーンを取り付けてみます。
エージングは、普通に聴く事だけです。
我慢し続けて・・・それでも良いんでしょうか?

PARC 2008.1.27

エージングについて
コメントありがとうございました。
ブログにも書きましたように、自分のよく聴く音源を中心にじっくりと時間をかけてやるというのが理想かと思いますので、もしウッドコーンさんが我慢が出来るならそのまま熟成させていくのもありかと思います。
ただ私見を述べさせていただければ、一般的にエージングで変化する割合というのは激変するという範囲ではなく、もし初期状態でウッドコーンさんが我慢しなければならない音と感じられたのでしたら、それはそのスピーカーとの相性が良くないという事かと思います。

たまに「買ってきた当初はひどい音だったが、エージングが進むにつれ激変し、どんどん良くなってきた」というようなコメントを拝見しますが、個人的には少し疑問を感じます。

エージングで期待できることは、あくまで慣らしであり、本来そのスピーカーが持っている性質そのものを変えてしまうようなことは無いと思います。

そのため初期状態で、ご自身の期待値との差が大きいような場合は、むしろスピーカーのセッティング方法を変えるとか、自作スピーカーなら吸音材やダクトの変更等の簡単に変更できる内容をトライされた方が良いかも知れませんね。ご参考まで。

マッシ 2008.1.28

DCU-F121Wエージング完了
DCU-F121WをハセヒロMM-161Tで使用しています。
MM-161Tの空気室改造で30Hzから音圧が得られています。
非常に歪の少ないユニットなのでバックロード特有の干渉音が気になり、消すのに苦労しましたが、空気室を改造し
ホーンから中高域が漏れないように工夫し満足した結果が得られました。

PARC 2008.1.28

F121Wのテストレポートありがとうございました
自分のユニットたちが、ユーザーの皆様の手によってどのような形で料理されていくのかを知ることは、
本当に興味深くいつも楽しみにしています。
本当にレポートありがとうございました。

ユーザーの皆様のこのようなレポートが気楽に書けるようなコーナーを作れればいいなぁなんて、考えている今日この頃です。でも、作ったはいいが、誰も書いてくれないなんて事になったら悲しいなぁとも思い、どうしたもんやら・・。

今後ともPARCのユニットをよろしくお願いいたします。

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