トゥイターのフレーム形状

2011年08月12日(金)

 

こんばんは。今日はトゥイターのフレーム形状について書いてみます。今日の話はかなり私の個人的な思いいれがあって書きますので、設計者の中には違う考え方の方もいるとは思いますが、まぁそういうつもりで見てくださいね。

 

 

さて皆さんはトゥイターを選ぶ時、どんなことを気にされますか?

 

え~っと、先ずは振動板の材質、それからマグネットサイズ、インピーダンス、耐パワー入力・・・・・。いろいろありますね。

 

この仕事を長いことやってると、OEMメーカーからの売り込みや、また自分で設計するモデル用のパーツ探しとして、いろいろなユニットを見ることがありますが、私の場合トゥイターを選ぶ時に一番最初に見るのは実はフレーム形状です。

 

何故かと言うと、フレーム形状を見ればそのユニットを設計したエンジニアのトゥイターに対しての考え方が分かると思っているからです。ご存知の方も多いかも知れませんが、トゥイターは扱う帯域が高域ということもあり、フレーム形状はウーファー以上に特性や音に効いてきます。

 

私が見るポイントは実に簡単で、いかにそのフレームが振動板に対して特性に影響を与える余計な部分を少なくしているかということ。早い話が、振動板より前面にフレームの厚みが薄く、余計な凹凸が出来るだけ少なくするということです。もっと簡単に言えば、振動板よりも前面部が、フラットで出来るだけ薄いこと。ユニットを横から見て、ドーム振動板が見えないくらいフレームが厚いものなどは私には完全NGなのです。

 

ソニー時代にトゥイターの開発をしている時、このフレーム形状についていろいろと検討したことがあるのですが、結論を言ってしまうと一番特性が素直なのは振動板より前面に何もなく、エッジの延長線上にずっとフラットなバッフルがあるものでした。もちろんこの時の検討は、高級モデルでよくある卵型や球体などの特殊なバッフルは除きます。あくまでバッフルは通常のフラットバッフルという前提です。

 

このベストの状態は、正に振動板が持っている素の特性であって、これから前面方向に厚みが出てくると特性はどんどん変化します。よく見かける一般的なフレームは、振動板周辺部が厚みがあって、ホーンっぽくなっているタイプですが、正直なことを言うと私の一番嫌いなものです。これは、ホーン効果を含めてそのトゥイターの特性をまとめるか、それとも出来るだけ余計なことをせずに振動板の素の特性を生かすようにするかという、設計者の設計ポリシーみたいなものでもあります。当然PARCは後者です。

 

実は、メーカー時代に某大手ユニットメーカーの設計担当者とTWの話をしていたら、このフレームに関することを全く知らずに設計していることが分かり驚いたことがありました。ちなみに後でそのメーカーが市販しているユニットを見たら、結構すごい格好をしていたりしましたね。まぁここで重要なことは、同じフレームを使うにしても、その形状をどうして選ぶのかを分かった上で使うのと、ただ流用品だから無条件で使うというのでは全く意味が違うと言うことです。

 

でも一般の方が見ると、フレームが厚くて、前に盛り上がっている方がかっこいいと感じる方もいらっしゃるかも知れませんね。よくデザインともこの件でもめたことがありました。(^^;

 

ちなみにソニーが平板スピーカーを全面的に採用していた当時、ソニーは商品導入する時に、口の前に両手をメガホンのように添えて、

「ほら、こうすると、声に変なクセがつくでしょう。これがコーンタイプの音なんですよ。それに比べて手を外すと声が自然になるでしょう。これが平板です。」

 

と言ってましたが、これには一理あると私は思います。少なくとも形状だけで言えば、平板はクセの出にくいものだと思います。ただこれを使うためにはハニカムなどの素材が必須となり、これが最大のネックになるのですが、それはまた別の機会に話をしましょう。

 

同じ意味で、イコライザーも私は好きではありません。イコライザーと振動板の間では共振や干渉が起こりますから、いわば毒をもって毒を制すみたいな感じになりますね。

 

ただこのようなフレーム形状やイコライザーなどで特性をコントロールしないという手法は、振動板の特性がそのまま出ることになるので、振動板自体の特性を良くする必要があることは言うまでもありません。また、前面部を薄くするとフレーム自体の強度も落ちるため、強度と特性をどこでバランスさせるかということが設計のポイントになります。PARCのトゥイターが全て高価な切削金属フレームを採用しているのも、こんな事情があったりします。少なくとも樹脂製のフレームではこのポイントを満足させるのはかなり難しいのです。

 

また背面部の厚みを増やして強度をかせぐというのも、加工が複雑にはなりますが有効な手法で、プロジェクトFでは採用しています。実は写真に写っているフレームは最終品ではなく、現在更に上記の改善を行ったものを試作中ですので、期待していてくださいね。では今日はこの辺で。

この記事へのコメント

keik 2011.8.13

うちも先日、TWのバッフルで特性が大きく変わる体験をしました。

http://blog.goo.ne.jp/goldkeik/e/2ca448b63c52f13666015bae9500f82f

高域はちょっとした事で大きく変わっちゃうんですね。驚きました。

parc 2011.8.14

keik様

>うちも先日、TWのバッフルで特性が大きく変わる体験をしました。

フレーム外周は必ず出るので、バッフルのザグリはやはり必須ですかね。

>高域はちょっとした事で大きく変わっちゃうんですね。驚きました。

そうですね。かなり分かりやすく出ます。(笑)
今やっているフレームも0.1mm単位で削るところと強度を維持するところのせめぎ合いをやってます。昔は手書きの図面だったので大変でしたが、今はCADで検討図が書けるので楽になりましたね。

GX333+25 2011.8.14

PARC 様

 すごいですね、フレームという直接音を出さないところを0.1mm単位で検討するなんて。でも、素顔の美しい・しなやかな振動板の音を直接ヴォイスコイルから駆動して聞かせよう、という趣旨はよくわかりました(厳密には「わかったつもり」というべきかもしれませんが)。

 そのせいでしょうか、同軸コアキシャルという難しい構造でも、高域の裸特性が優れたアンプで駆動してやると、どこかでつかえることなく、だからといって無理矢理伸ばしてるぞーって感じもなく、すーっと伸びて、むしろ涼やかな印象をもつのは(もっとも、そういう音源を探すのがなかなか難事ではありますが)

 本当に奥の深い世界ですね。

parc 2011.8.14

GX333+25様

>すごいですね、フレームという直接音を出さないところを0.1mm単位で検討するなんて。

昔の手書き図面ではチョンボが出そうなところです。(^^;

>同軸コアキシャルという難しい構造でも、高域の裸特性が優れたアンプで駆動してやると、どこかでつかえることなく、だからといって無理矢理伸ばしてるぞーって感じもなく、すーっと伸びて、むしろ涼やかな印象をもつのは

まぁコアキシャルも基本的な考え方は同じなのですが、あちらは寸法規制がものすごく厳しいので、プロジェクトFと比べるのはちょっと酷ですね。

GX333+25 2011.8.15

PARC 様

 再々顔を出してスミマセン。気になって、自分のところのスピーカーや過去の「名器」と言われたスピーカーのトゥイーターをあれこれ見てみました。

 代表がソニー時代によく比較検討なさっていた、というダイヤトーンのD.U.D.なんかは、ダイヤフラムが本当に正面に素のままでついてますね。それから、ビクターのSXシリーズも同じ。自宅にあるセレッションSL-6Sも同じ。それに対して、ヤマハのNS-1000Mはディフューザー付きながらも、ダイヤフラムはどーんと前に出てますね。微妙なのはSS-G7で、バランスドライブ型と小さなイコライザ付きですが、いわゆるホーンみたいな格好には見えません。

 いろいろと工夫されてきたのがよくわかります。

 ちなみに、軽井沢スピーカー工房というところでは、今では入手不能になったD.U.D.の取り替え用ということで、マグネシウムのミッドハイとトゥイーターがありましたが、問題は厚み。ミッドハイで100μm、トゥイーターでも44μmとのこと。なるほど、いつも代表がおっしゃっているように、これでは折角の比重の小ささも完全には活かしきれないでしょうね、たぶん。

parc 2011.8.16

GX333+25様

>ヤマハのNS-1000Mはディフューザー付きながらも、ダイヤフラムはどーんと前に出てますね。

1000MのTWの特性はベリリウムを使っていることもあり、非常に良いものでした。私も当時このユニットをユニットの比較検討に使っていました。でも、やはりイコライザーは好きではないですね。

>微妙なのはSS-G7で、バランスドライブ型と小さなイコライザ付きですが、いわゆるホーンみたいな格好には見えません。

G7は私がソニーに入社前のモデルなので、詳しくは言えませんが、バランスドライブの場合どちらかと言うとドームというよりコーン型の変形と見た方がよく、ちょっと今回のフレームの話とは事情が変わります。

>マグネシウムのミッドハイとトゥイーターがありましたが、問題は厚み。ミッドハイで100μm、トゥイーターでも44μmとのこと。

この厚みはマグネシウムの厚みであって、それの両面にさらに錆止めのためのコーティングが数十ミクロンがプラスされますから、極薄アルミとは少なくとも重量に関してはかなり違いますね。

ただそれよりも、既存のユニットの振動板だけを他の素材に変えるというのは、かなり乱暴ですね。いい悪いは別として、オリジナルのバランスと同じになるとは到底思えません。でもこういう世界もあるんですねぇ。

GX333+25 2011.8.16

PARC 様

本当にすみません。なんだかチャットみたいになってしまって。

>いい悪いは別として、オリジナルのバランスと同じ
>になるとは到底思えません。でもこういう世界もあ
>るんですねぇ。

 たしかにおっしゃるとおりだと思います。私も乱暴だと思います。

 ただ、スピーカーって品物は人の声を出すだけに愛着もひとしお、たとえば、今は居間でなっているセレッションは新婚初めての二人での大きな買い物だった、など……修理実績を見ると、今度の地震で倒れて割れてしまって持ち込まれた、というのを散見しますから、あるいはそういう世界の話があるかも、と。

 不吉なことを申し上げるつもりは毛頭ありませんが、たとえば突然PARC様がスピーカー作りをできなくなって、にもかかわらずユニットに不調をきたした場合、私もそういったところを「最後の一本のわら」としてすがるかもしれません。

 もちろん、これは技術論はるか以前の話です。

parc 2011.8.17

GX333+25様

>たとえば突然PARC様がスピーカー作りをできなくなって、にもかかわらずユニットに不調をきたした場合、私もそういったところを「最後の一本のわら」としてすがるかもしれません。

たしかにPARCは一人でやっていますので、私に何かあれば今ある在庫分は別として、今後の入手は不可能となりますね。まぁその時は、また中国からのPARCもどきが出てくるかも知れませんが。

まぁそうならないよう、頑張ります。

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